不可逆的あるいは永続的障害
- 認知機能障害:ふたつのメタ分析論文において、BZ長期連用により、不可逆的あるいは永続的な認知機能障害 (cognitive impairment) が引き起こされ得ることが示唆されている。(Barker MJ et al., 2004) 1 (Stewart S, 2005) 2 これが最近の田島論文でも指示されている。(Tajima, 2012) 3
- ストレス対処能力喪失:アシュトンマニュアルで指摘されているように、「薬剤からの離脱後、脳内GABA神経細胞におけるBZ受容体の活動変化により、患者は中枢神経の興奮性が高まり、ストレスに対する感度が増大した状態におかれます。」(Ashton H, 2011) 4
- アルツハイマー病:最近のケースコントロール(症例対照)研究結果によると、BZ服用は180日間を超える場合、アルツハイマー病を出現する可能性は2倍も増加する。(de Gage SB et al., 2014) 5
- 死亡率:最近のコホート研究結果によると、これらの薬剤(抗不安薬、睡眠薬)の処方は死亡リスクの著しい増加と関連している。広範囲の潜在的交絡因子を調整した後のデータによると、全般の死亡リスクは2倍(リスク比:2.08)も増加するという推定結果になった。最初処方開始後、平均7.6年間の調査で追跡した100人あたり4人の過剰死亡(薬物使用と関連する死亡)があった。即ち、抗不安剤と睡眠薬を処方された100人のうち、4人の不必要な死亡があったということである。(Weich S et al., 2014) 6
- 未確認の後遺症:上記の例以外にもBZ系薬剤や類似薬剤が引き起こす不可逆的あるいは永続的障害は多くあるが、科学的研究が現状に追いつくのは非常に長い時間がかかる。残念なことに、その間は、多くの深刻な被害が相次いで引き起こされている。(ヴァーノン・コールマン医師のアドバイスをご参照ください)。
- 子供:ジャパンタイムズ記事によると、子供たちも医者に精神安定剤や睡眠薬を処方され、また「10人の小児専門医の中、およそ3人は、幼い子供に向精神薬を処方している」と報告された。(The Japan Times, 2011) 7アシュトン教授によると、「脳はおよそ21歳まで成長し続けます。BZ系薬剤を子どもに投与すると、脳の成長を損ないます。また、新たなスキル(とりわけ不安や困難に対処する能力)や認知(知的)能力の習得を阻害します。その結果、その子が本来持っている知的能力、情緒的能力にまで到達しない可能性があります。」(Yomiuri, Ashton H, 2012) 8これは日本のみならず界的な問題になっている。
- 不可逆的損傷:厚生労働省のウェッブサイトで指摘されているように「睡眠薬や精神安定薬なども、使い方を誤ると依存症になる可能性があります(1頁)。残念ながら、依存症になってしまった脳は元の状態には戻らないと考えられています。その意味で、依存症が完全に治るということはありません(8頁)。頭の中にいったん依存が形成され異常が起きてしまった場合、その後薬物を使わないでい続けたとしても、残念ながら脳は完全に元に戻ることはないといわれています(10頁)。」(厚生労働省) 9 これは薬物依存(物質依存)の通説(common knowledge)です。
- 質問:アルコールや違法薬物による不可逆的あるいは永続的障害は既成の事実として知られているが、(1)その中毒性がどの依存性薬物よりも強く、(2)離脱症状の持続期間がはるかに長く、(3)多くの人たちが後遺症を訴えているのに、BZ系薬剤が、不可逆的損傷を引き起こさないと断言できますか?
- 実例:歯の治療を受けただけで、BZ系薬剤による後遺症になってしまった人物をご紹介します(benzo.org.ukのウェッブサイトの設立者)。
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- Barker MJ, Greenwood KM, Jackson M, Crowe SF. Cognitive effects of long-term benzodiazepine use: a meta-analysis. CNS Drugs 2004; 18 (1): 37–48.
- Stewart SA. The effects of benzodiazepines on cognition. J Clin Psychiatry 2005; 66 (Suppl):S9-S13.J Clin Psychiatry. 2005; 66 Suppl 2: 9-13.
- 田島治、辻敬一郎:特集 身体疾患と向精神薬 II.向精神薬の使用法と留意点 70 (1): 45, 2012. (Tajima O, Keiichiro Tsuji. Special Edition – Physical Disorders & Psychotropic Drugs: II. Uses and cautions for psychotropic drugs 2012; 70 (1): 45.)
- Ashton H. Supplement to Benzodiazepines: How They Work and How to Withdraw 2012.
- Sophie Billioti de Gage, Yola Moride, Thierry Ducruet, Tobias Kurth, Hélène Verdoux, Marie Tournier, Antoine Pariente, Bernard Bégaud. Benzodiazepine use and risk of Alzheimer’s disease: case-control study. BMJ 2104; 349: g5205.
- Scott Weich, Hannah Louise Pearce, Peter Croft, Swaran Singh, Ilana Crome, James Bashford, Martin Frisher. Effect of anxiolytic and hypnotic drug prescriptions on mortality hazards: retrospective cohort study. BMJ 2014; 348: g1996.
- 30% of Doctors Give Psychotropics to Tots with Disorders. The Japan Times (Japan) [online] 2011 Mar 11.
- 佐藤記者.抗不安・睡眠薬依存(8)マニュアル公開記念・アシュトン教授に聞いた.読売新聞(日本)[オンライン] 2012年8月20日.(Sato M. Anxiolytic/hypnotic drug dependency (8): In commemoration of publicizing the manual in Japanese, we asked Prof. Ashton. Yomiuri Newspaper (Japan) [online] 2012 Aug 20.)
- 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課.ご家族の薬物問題でお困りの方へ:薬物依存症を理解しましょう.1, 8, 10, 2013年12月31日.
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マ ルコム・レイダー教授:英国ロンドン大学精神医学研究所名誉教授(臨床精神薬理学)。世界保健機関(WHO)において、精神科処方薬に関するアドバイザー を務める。ロンドンでベンゾジアゼピン離脱専門クリニックを運営していた。ベンゾゼピンについて100本以上の論文を発表している。
On benzodiazepine brain damage reported to the Medical Research Council in January 1982: “The results didn't surprise us because we already knew long-term alcohol use could cause permanent brain changes. There should have been a really good, large-scale study but I was never given the facilities or resources to do it. I asked to set up a unit to research benzos but they turned me down... they could have set-up a special safety committee, but they didn't even do that. I am not going to speculate why; I was grateful for the support they did give me. There were always competing interests for the same resources, so maybe it wasn't regarded as important enough. I was getting on with other research and didn't want to be labelled as the person who just pushed benzos... I should have been more proactive... I assumed the prescribing would peter out, but GPs are still swinging them around like Smarties.”
Professor Malcolm Lader
O.B.E., LL.B., Ph.D., M.D., D.Sc., F.R.C. Psych., F. Med Sci.
Emeritus Professor of Clinical Psychopharmacology
Institute of Psychiatry,
University of London
Independent on Sunday, November 7, 2010.
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ベンゾジアゼピン服用による長期的(場合によると永続する)影響に関与している可能性の あるメカニズムのひとつは、脳内GABA神経細胞におけるベンゾジアゼピン受容体の活動変化です。ベンゾジアゼピンの慢性使用により、この受容体が下方制 御を受け(減少し)、ベンゾジアゼピンに対する耐性が形成されます。この下方制御は、薬剤の継続的介在に対する、生体の恒常性維持(ホメオスタシス)反応 なのです。ベンゾジアゼピン自体がGABA機能を賦活化させるため、余分なベンゾジアゼピン受容体が必要とされなくなり、多くの受容体が、事実上、廃棄さ れます。これらの下方制御された受容体は神経細胞に吸収され、やがて、受容体は遺伝子発現の変容など様々な変化を起こします。薬剤からの離脱後、これらの 受容体がゆっくりと回復していく際、僅かに変化した形で戻ってくる可能性があります。GABAは本来‘鎮静系’の神経伝達物質ですが、変化した受容体は、 変化する前に比べ、 GABAの作用を高める上であまり効果的でない可能性があります。その結果、脳のGABAへの感度が全般的に低下し、患者は中枢神経の興奮性が高まり、ス トレスに対する感度が増大した状態におかれます。分子生物学者によると、遺伝子発現の変化からの回復は非常にゆっくりであり、場合によっては回復不可能で さえあると指摘されています。(GABA受容体におけるベンゾジアゼピンの作用については、マニュアル内でより詳細に解説してあります。)
一部の人々は、他の人たちよりも、生まれつき不安を感じやすい傾向があるようです。全般 性不安障害やパニック障害の患者、耳鳴りを呈する患者では、たとえベンゾジアゼピン治療を受けていなくても、脳内GABA/ベンゾジアゼピン受容体の密度 が低く(数が少なく)、ベンゾジアゼピンに対する感受性が低いことが、脳の画像解析および薬理学的研究により示されてきました。おそらく、このような遺伝 的にGABA/ベンゾジアゼピン受容体が少ない人は、ベンゾジアゼピンによる長期的影響、離脱後の遷延性症状、明らかな離脱症状の再発を、より経験しやす い人達なのでしょう。
断薬後も持続する慢性的な神経系の過亢進症状は、マニュアル第Ⅲ章の表3 に記載されています。
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「もし何かの薬を飲み続け、それが長い長い災難をもたらし、あなたからアイデンティティをまさに奪い去ろうとしているのなら、その薬はベンゾジアゼピンに違いない。」
ジョン・マースデン医師
ロンドン大学精神医学研究所
2007年11月1日
「我々の社会において、ベンゾは他の何よりも、苦痛を増し、より不幸にし、より多くの損害をもたらす。」
フィリップ・ウーラス下院議員
英国下院副議長
オールダムクロニクルOldham Chronicle (2004年2月12日)
「ベンゾジアゼピン系薬剤はおそらく、これまでで最も中毒性の高い薬物であろう。これらの薬を大量に処方してきた途方もなく大勢の熱狂的な医師達が、世界最大の薬物中毒問題を引き起こしてきたのだ。」
薬という神話 (1992)
この気の毒な問題に取り組む全ての関係者は、トランキライザー被害者の為に正義を提供するよう努めるべきである。
「薬があれば、製薬会社はそれを使える病気を見つける。」
ジェレミー・ローランス (ジャーナリスト)
インディペンデント紙 (2002年4月17日)
「製薬会社に対して、彼らの製造する薬について公正な評価を期待することは、ビール会社にアルコール依存に関する教えを期待するのと同じようなものである。」
マーシャ・エンジェル医師
医学専門誌"New England Journal of Medicine"元編集長
「ベンゾジアゼピンを飲むと災難がやって来る。」
アンドルー・バーン医師
オーストラリア, NSW, レッドファーン
ベンゾジアゼピン依存 (1997)