第2 実案の概要
2.1: (実案の概要)
本件は,控訴人が,被控訴人Iの開設するSクリニックにおいて,被控訴人X(以下「被控訴人X」と言う。)からめまい等に対する治療を受けていたところ,被控訴人Xは,ベンゾジアゼピン系薬物を処方するに当たって,適切な説明をせず,また,控訴人の病状に対する経過観察を怠ったため,控訴人は長期にわたってベンゾジアゼピン系薬物の処方を受け続けてベンゾジアゼピン中毒になったと主張して,被控訴人らに対し,診察契約上の債務不履行に基づく損害賠償として,3092万8848円並びにうち2535万0650円に対する催告の日の翌日である平成18年3月25日から平成20年9月25日まで,また,3092万8848円に対する本件訴訟において「請求変更申立書(請求の拡張)」を提出した日の翌日である平成20年9月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
原審は,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人が控訴した。
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2.2: (実案の概要)
本件における前提となる事実,争点及び争点についての当事者の主張は,下記3に当事者の当審における主張を追加ないし補足するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2項から4項まで(原判決2頁20行目から同6頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
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第2の3 当事者の当審における主張
2.3.1のア: 控訴人の主張
被控訴人Xの治療を受ける前に見られなかった控訴人の症状で,被控訴人Xの治療を受けている最中に現れた控訴人の症状には,①熱に対して敏感になったこと,②痔,③手の異常な発汗,④眼球の水晶体に傷ができているように見えること,⑤口の潰瘍ができやすいことがある。
このうち,①はベンゾジアゼピンの耐性又は副作用であり得る。③はベンゾジアゼピンの耐性及び退薬症候であり得る。また,⑤はベンゾジアゼピンの副作用であり得る。
他方,倦怠感,足の力が抜けたような感じ,息苦しさ,めまい,ふらつき,耳鳴り,吐き気,眼がチカチカすること,頭がズキズキする・頭が強く脈打つ感じ,首や背中の筋肉痛・肩凝り,静脈洞に圧力があること,ストレスは,被控訴人Xの治療前に存在したが,被控訴人Xの治療開始後は,消失し,平成12年12月21日ないしそれ以前に再び現れたもので,ベンゾジアゼピンの耐性の結果の症状であり得る。
甲A31ないし34号証を精査した結果によれば,控訴人が被控訴人Xを受診する以前に自律神経失調症に罹患していた可能性を完全に排除することはできないが,仮に控訴人が自律神経失調症に罹患していたとしても,さらにベンゾジアゼピン依存症にも罹患したということは十分にあり得る。
しかも,上記のように多数の症状がベンゾジアゼピンの服用後,一旦消失ないし軽快し,その後再燃した事実は自律神経失調症で説明することは困難である。
また,控訴人は,平成13年4月に母国たるニュージーランドに帰国後,ジャドスン医師による漸減療法を受けた結果,症状の一時的悪化を呈しているが,その原因は,母国に帰国してより寛ぐ環境下に置かれていた以上,ベンゾジアゼピンの服用量の漸減によるものと結論するほかない。
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2.3.1のイ: 控訴人の主張
平成8年には,「4~6ヵ月以上の臨床用量のBZ服用者には50%を超える退薬症候の発現率を覚悟しておかねばならないことになる」,「本来,依存状態に陥る前にうまくBZの投薬を終了して,6ヵ月以上の長期使用へ移行しないような予防的工夫が大切である」と明記した甲B6号証の医学書が出版されていたから,平成12年にはベンゾジアゼピン臨床用量依存症の可能性の知見は我が国で確立されていた。
甲B6号証は,特段の事由のない限り6か月以上の長期使用を避けるべきであると述べているところ,特段の事由とはベンゾジアゼピンが有効に作用している場合(改善効果がみられる場合)である。本件では,被控訴人Xの診療期間中の平成12年8月下旬以降において,ベンゾジアゼピン投与による治療効果は特にみられなかったのであるから,特段の事由はない。
従って,被控訴人Xが説明義務を尽くしたこと評価できるためには,最低限,「副作用などが結構あり得るので,何か具合が悪かったら,すぐ言ってほしい。」などと説明することが必要であるが,被控訴人Xはそのような説明はしていないのであるから,被控訴人Xに説明義務違反があることは明白である。
また,ベンゾジアゼピンを処方する医師は,ベンゾジアゼピンによる改善効果がみられないときは,6か月以上の使用をしないとの経過観察義務を負っている。しかるに,被控訴人Xは,控訴人にベンゾジアゼピンによる改善効果がみられないのに6か月を超えた期間処方をしたのであるから,被控訴人Xには経過観察義務違反がある。
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注 記
上記の甲B6号証とは:「Benzodiazepineの常用量依存」と題する論文(村崎光邦北里大学教授作成[「薬物依存と脳障害」<学会出版センター>と題する書物に掲載された論文])である。
2.3.2のア: 被控訴人Xの主張
DSM-IV-TRの物質依存の基準の適用例として挙げられている物質はコカイン,アルコール,喫煙であるから,治療のために標準的に用いられる薬物に上記基準を機械的に当てはめて診断することはできない。コカインやアルコールと異なり,臨床用量のベンゾジアゼピンは臨床的に重大な障害や苦痛を引き起こすものではない。
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2.3.2のイ: 被控訴人Xの主張
控訴人は,平成12年8月下旬から同月末にかけて体調が悪化したと主張する。しかし、同月21日に被控訴人Xが控訴人を診察した時,問診と各種検査で異常は全く認められず,控訴人から薬物の増量を求められたこともなかったので,薬物の効果が著しく減弱したことはなかった。被控訴人Xの診療中,薬物の処方量が増加することはなく,控訴人に所定の投薬量に対する反応が鈍麻する耐性の微候は認められなかった。
被控訴人Xの最後の診療の直前である同年12月21日に控訴人を診察したM医師は,控訴人が提出した症状経過を検討した上で,ベンゾジアゼピンによる有害な作用を認めず,被控訴人Xと同様にベンゾジアゼピンを処方している。
また,M医師の診療中,控訴人は睡眠がとれているためレキソタンを飲んでいないので,ジャドスン医師が耐性の根拠としている睡眠障害の悪化はなく,被控訴人Xの診療中に控訴人にベンゾジアゼピンの耐性は生じていない。
また,控訴人は,同年10月から12月にかけて新たな症状が生じたと主張する。しかし,被控訴人Xは,毎回詳細な問診と各種検査を行ったが,控訴人に従来の症状と質的に異なる新たな症状は認められなかった。むしろ,客観的な検査である重心動揺検査では,初診時よりもふらつきは改善していた。また,一般論としても,8か月未満の投与では,抗不安薬の退薬症候の発現率は5%にすぎない。
被控訴人Xが投与した薬物でベンゾジアゼピン受容体に結合するものはリボトールとコントールだけであり,被控訴人Xは,これらの薬物を能書で定められた量の半分程度を7か月弱処方したにすぎないから,退薬症候が発現するような処方量でも処方期間でもない。
ジャドスン医師が漸減療法中に確認したとしている症状は,いずれも客観的な検査による裏付けがなく,被控訴人Xによる診療前からある不定愁訴(めまい,不安,頭痛,目が疲れている,光に対して敏感になったこと,首及び背中の筋肉痛,いつもより頭が強く脈打つ感じなど)と体質的に変わらず,いずれも自律神経失調症又は神経症の症状であるから,控訴人の原疾患そのものである。
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裁きは公正ですか?
- 高等裁判所の判決における決定的な矛盾は、私がDSM-IV-TR の診断基準に適合する薬物依存であったという事実を除外していない点にあります。DSM-IV-TRは世界的にも認められている診断基準です。この DSM-IV-TR基準が、本訴訟全体の基礎になっていました。
- 裁判官は「耐性」(基準1)と離脱症状(基準2)の2つだけにしか見解を示しませんでした。しかも、その見解はDSM-IV-TRの診断基準に基づくものではありませんでした。基準を満たしていた残る3基準については、裁判所は全く判断しないままになっています。
このサイトの主要言語は英語です。
その翻訳は私自身を含む複数の人によって手がけられました。
私の母国語は日本語ではありませんので何卒ご理解いただきたくお
「もし何かの薬を飲み続け、それが長い長い災難をもたらし、あなたからアイデンティティをまさに奪い去ろうとしているのなら、その薬はベンゾジアゼピンに違いない。」
ジョン・マースデン医師
ロンドン大学精神医学研究所
2007年11月1日
「我々の社会において、ベンゾは他の何よりも、苦痛を増し、より不幸にし、より多くの損害をもたらす。」
フィリップ・ウーラス下院議員
英国下院副議長
オールダムクロニクルOldham Chronicle (2004年2月12日)
「ベンゾジアゼピン系薬剤はおそらく、これまでで最も中毒性の高い薬物であろう。これらの薬を大量に処方してきた途方もなく大勢の熱狂的な医師達が、世界最大の薬物中毒問題を引き起こしてきたのだ。」
薬という神話 (1992)
「薬があれば、製薬会社はそれを使える病気を見つける。」
ジェレミー・ローランス (ジャーナリスト)
インディペンデント紙 (2002年4月17日)
「製薬会社に対して、彼らの製造する薬について公正な評価を期待することは、ビール会社にアルコール依存に関する教えを期待するのと同じようなものである。」
マーシャ・エンジェル医師
医学専門誌"New England Journal of Medicine"元編集長
「ベンゾジアゼピンから離脱させることは、ヘロインから離脱させるよりも困難である。」
マルコム・レイダー教授
ロンドン大学精神医学研究所
BBC Radio 4, Face The Facts
1999年3月16日