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第Ⅲ章(後半)

ベンゾジアゼピン離脱症状、急性および遷延性

 

   

Clarifying Statement from Prof. Ashton (Re: "20 years"in the first paragraph below)

It has been brought to my attention that some doctors/people are interpreting the section on Protracted Withdrawal Symptoms as suggesting one would need to be on benzodiazepines for an extended period of about 20 years in order to experience protracted withdrawal symptoms.

The mention that many people had been taking benzodiazepines for 20 years or more was an example only and by no means suggests that one would need to be on benzodiazepines for this length of time to develop protracted withdrawal symptoms.

Indeed some people have developed problems with protracted withdrawal symptoms after being prescribed regular (therapeutic) doses of benzodiazepines for only less than a year. In addition, people who have a traumatic withdrawal, even after a few months of potent benzodiazepines, not infrequently have protracted symptoms and possibly post-traumatic stress disorder (PTSD) which can be very prolonged.

C. H. Ashton, June 2013


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遷延性離脱症状

ベンゾジアゼピンから離脱した人のうち少数が、長期に及ぶ影響に悩まされるようです。数ヶ月、数年経過しても消えない遷延性の症状です。ベンゾジアゼピンの長期服用者のうち、おそらく10~15%の人が“離脱後症候群”を発症すると言われています。このような人の中には、ベンゾジアゼピンを20年以上服薬していたり、離脱において辛い経験をしていたりする人が多くいます。自分で漸減をコントロールし、ゆっくりと減薬した人では、離脱症状が遷延化する確率がはるかに低いことは、ほぼ確かなことです。

表3 に最も長期化しやすい症状を示しています。これらには不安、不眠、抑うつ、多彩な知覚および運動系の症状、消化器系の障害、記憶力および認知力の低下があります。何故、一部の人にこのような症状が遷延するのか、その理由は明らかではありません。おそらく多くの要因が関係しています。薬剤の直接的な影響によるものもあれば、間接的あるいは二次的な影響によるものもあるでしょう。(表4参照)

表3. 遷延性ベンゾジアゼピン離脱症状のいくつか

症 状

通常の経過

不 安

- 1年かけて徐々に消失。

抑うつ

- 数ヶ月続くことがある;抗うつ薬に反応する。

不 眠

- 6~12ヶ月かけて徐々に消失。

知覚症状: 耳鳴り、ピリピリ感、痺れ、四肢の深部痛や灼熱痛、身体内部の震え感や振動感、奇妙な皮膚感覚

- 徐々に軽減するが、少なくとも1年、場合によっては数年持続。

運動系症状: 筋肉痛、筋脱力、有痛性痙攣(こむら返り)、震え、ミオクローヌス(筋肉の突然の収縮による、身体の一部の瞬間的な不随意運動)、筋痙攣、震えの発作

- 徐々に軽減するが、少なくとも1年、場合によっては数年持続。

記憶力および認知力の低下

- 徐々に軽減するが、少なくとも1年、場合によっては数年持続。

消化器系症状

- 徐々に改善するが、少なくとも1年、場合によっては数年持続。

 

表4. 遷延性ベンゾジアゼピン離脱症状の考えられる原因

考えられるメカニズム

影 響

1.ストレスに対処する学習能力がベンゾジアゼピン服用によって妨げられており、これが離脱を契機に顕在化する。

不安、ストレス脆弱性

2.ベンゾジアゼピンによる記憶障害のため、日常の辛い出来事に対処する解決能力が阻害され、それが離脱を契機に露呈する。

不安、抑うつ

3.過去の離脱中のトラウマティックな経験

心的外傷後ストレス症状

4.(?)ベンゾジアゼピンによって引き起こされた生化学的変化 (セロトニン、ノルピネフリン[ノルアドレナリン]、ストレスホルモン)

抑うつ

5.GABA/ベンゾジアゼピン受容体の持続的変化による、神経系の過興奮。

知覚および運動系症状、不安、不眠

6.(?)脳組織の構造的あるいは機能的損傷

記憶力および認知力の低下

7.(?)腸管および免疫系の変化 

消化器系症状

8.(?)体内組織へのベンゾジアゼピンの長期残留

神経系の過興奮性を遷延

(?)は現時点で科学的エビデンスはないものの可能性のあるメカニズム。


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不 安

離脱後の急性期を過ぎても残存する不安は、部分的には、ベンゾジアゼピンによって引き起こされた学習障害が顕在化したためかもしれません。この薬剤は、ストレス対処方法など新たなスキルの学習を特に損ないます。このようなスキルは通常、幼少期から中年期あるいはそれ以降にかけて、人生経験の積み重ねにより、継続的に習得されていくものです。ベンゾジアゼピン服薬中の数年間、そういったスキルの形成が妨げられることがあります。離脱後、前服用者は、ストレスフルな状況に対応する能力が低下したまま脆弱的な状態にあります。薬によりストレス対処能力が妨げられていた数年間を取り戻すため、新たなストレス対処法を習得し完全回復するには何ヶ月も要することがあるかもしれません。

第二に、ベンゾジアゼピン離脱により、過去の生活でうまく処理できなかった問題が露呈することがあります。例えば、ベンゾジアゼピンによって引き起こされる記憶障害は、死別、交通事故のような個人的ストレスの正常な解決を妨げることがあります。ベンゾジアゼピンの離脱後、そういう埋もれていた、あるいは半分忘れかけていた過去の経験に直面せざるを得ない場合があり、これによって、不安や抑うつが長期化する可能性があります。配偶者に先立たれた夫や妻が、死別の際、最初にベンゾジアゼピンを処方され、その後ベンゾジアゼピンを止めたところ、その時に初めて悲嘆のプロセスを経験するということは決して稀なことではなく、たとえ何年も前に死別した場合であっても珍しいことではありません。

離脱中恐ろしい体験をした人では、第三のファクターが影響している可能性があります。しばしば病院や薬物依存治療施設において、また時には自宅でも、主治医が十分な説明を行わないまま処方を中止して、急速な離脱を経験した人によくあることです。そのような人たちは心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を発症することもあります。離脱の体験がフラッシュバックや悪夢となり絶えず繰り返され、そして不安も長期化するのです。

更に、ベンゾジアゼピン長期服用者の多くは(決して全てではありませんが)、相対的に自己評価が低く、元来、非常に神経質で繊細な人たちであり、彼らのこの不安の問題が、当初のベンゾジアゼピン処方のきっかけとなっています。そして、この不安の持続により(おそらくベンゾジアゼピンによって高められ)、医師は薬を処方し続けています。このような人たちが自分自身に完全な自信を取り戻す、あるいは獲得するには長期間を要するかもしれません。

これらのファクターにも拘わらず、遷延化する不安症状は、広場恐怖やパニックを含め徐々に軽減していき、一年以上続くことは滅多にありません。良い心理的サポートや、急性不安症状の項で紹介した方法を用いることにより、このプロセスは速められるでしょう。信じられないかもしれませんが、離脱を終えた人は、ベンゾジアゼピン服薬を開始する以前よりも、自信がより強くなっていることがよくあります。


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抑うつ

ベンゾジアゼピンの慢性服用により抑うつが引き起こされたり、悪化したりすることがありますが、これはまた、離脱症候群の特徴的症状でもあります。抑うつ症状は、離脱後に初めて、時には数週間遅れで発症することがあります。その症状は重篤になる場合があり、また何ヶ月も遷延化することもあり得ます。以前に抑うつの発症歴あるいは家族歴のある人が、この併発症に、より罹りやすいかどうかは明らかではありません。そして、その原因もよく分かっていません。第Ⅰ章第Ⅱ章で論じたように、ベンゾジアゼピンは多くの神経伝達物質およびホルモンの機能を妨げます。抑うつは、例えば、セロトニンの活動低下と離脱のストレスが組み合わさってもたらされている可能性が考えられます。離脱における抑うつが、最終的に治療が必要なほど重篤な場合、抗うつ薬や認知療法に反応し、通常は、6~12ヶ月かけて徐々に軽減していきます。


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不 眠

不眠は、不安および抑うつの両方によく伴います。不安状態では、一般に入眠困難があります。一方、抑うつは、夜中の頻繁な中途覚醒や早朝覚醒を伴います。不眠もまた、悪夢や他の睡眠障害とともに、急性離脱症状としてよく発症します。しかしながら場合によると、不眠は(時にむずむず脚症候群やミオクローヌスを伴い)、他の症状が消失した後も単独症状として残存し、何ヶ月も持続することがあります。しかしながら、最終的には十分な睡眠パターンが回復しますから、不眠に悩む人は安心してください。身体には、脳が深刻な睡眠不足にならないように、パワフルなメカニズムが生まれつき備わっているからです。


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知覚および運動障害

ベンゾジアゼピンからの離脱は、あらゆる知覚および運動刺激に対して、神経系に非常に敏感な状態を引き起こすことは間違いありません。通常、この状態は数週間で落ち着きますが、場合によっては不快な知覚が持続することもあります。

最も悩ましい知覚系症状のひとつは耳鳴りです。ベンゾジアゼピン離脱に関する複数の研究で、持続的な鳴り響く音や摩擦音の耳鳴りが認められています。ある女性は彼女の耳鳴りを、頭の中を深く突き刺す“音の針”のようだと表現しました。耳鳴りは、あるレベルの聴力障害には随伴してよくみられ、ベンゾジアゼピンを摂取したことのない、部分的な神経性難聴を持つ人には珍しくはない症状です。しかし、何年もの間、聴力障害を持っていた人が、ベンゾジアゼピン離脱中に初めて耳鳴りを発症するということもしばしばあります。また、その耳鳴りは片側あるいは明らかに局部的に起きることがあり、左右対称性の両側難聴の人にさえも片側性に起きることもあります。ベンゾジアゼピンを長期服用していた人が特に耳鳴りを発症しやすいかどうかについては不明で、あるいはもし関係があるとしても、その理由については分かっていません。耳鳴りは、何年にも亘り持続することがあり、通常の耳鳴り治療(マスカーなど)に常に反応するとは限らず、また、ベンゾジアゼピンの再服薬で必ずしも軽減するとは限りません。しかしながら、離脱後耳鳴りが持続する人は、聴覚の専門家の意見を求めるべきで、運よく、この症状を専門にするクリニックが見つかるかもしれません。

胴体、顔、四肢、指などの、ピリピリ感、“針でチクチク刺すような感覚”、部分的な痺れなど、いくつかの不快な体性感覚が、離脱後持続することがあります。これらは、時に筋肉あるいは骨の深部に発するように感じる灼熱痛や疼きを伴うことがあります。“内部の震え”やバイブレーション感覚を訴える人もいます。他には、奇妙な感覚を、身体の上を水やスライムが流れていると表現したり、頭皮上を蛇のようなものが身をよじっていると表現したりする人もいました。長期化することがある運動症状には、筋緊張、筋脱力、こむら返り、ミオクローヌス、筋痙攣、震えの発作などがあります。

[訳註:「ミオクローヌス」とは、筋肉の突然の収縮により、身体の一部が瞬間的に動く不随意運動のこと。入眠時によく起こる。]


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持続する知覚症状と運動症状の考えられるメカニズム

上記の症状はストレスでしばしば悪化しますが、原因が単に不安症のためでないことは明らかです。脊髄あるいは脳内にある運動系および感覚系神経系路の機能障害が示唆されます。これらのメカニズムを解明するひとつの手がかりが、LaderとMortonが発表した、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬フルマゼニル(アネキセート、ロマジコン)を用いた臨床試験で示されました(Journal of Psychopharmacology 1992, 6, 357-63)。離脱後5~42ヶ月間、遷延性の離脱症状(筋緊張、“針でチクチク刺すような感覚”、筋脱力、こむら返り、ミオクローヌス、灼熱感、振戦あるいは震え)を呈していた11人の患者に、この薬剤を静脈注射すると、それらの症状が急速に軽減しました。症状は27~82%の改善を示し、最大の効果がみられたのは不安の評価尺度が最低の患者でした。生理食塩水の注入には反応を示しませんでした。

フルマゼニルは、GABA/ベンゾジアゼピン受容体(第Ⅰ章参照)を“リセット”することにより作用すると考えられ、それにより、GABA/ベンゾジアゼピン受容体はGABAの抑制作用に対して受容性がより高くなります。この臨床試験の結果は、いくつかの遷延性症状の原因は、耐性の形成により受容体がGABAに反応しなくなった後、元の正常な状態への回復が不全であることを示唆しています(第Ⅰ章参照)。フルマゼニルに反応するということは、ベンゾジアゼピンの薬理学的影響がこれまで考えられてきたよりも長期間持続しうることを示しています。

残念ながら、フルマゼニルは現在のところ、遷延性の症状に対する実用的な治療薬とはなりません。静脈内に注入しなければいけませんし、作用が非常に短時間のため、症状の軽減は一時的に限られています。またこの薬は、ベンゾジアゼピンをまだ服薬中の人に対しては、激しい離脱反応を引き起こすために投与できません。しかしながら、遷延性の知覚系および運動系の症状は、時には、ほとんど永続するかのように思えますが、たとえフルマゼニルを用いなくとも、その激しさは何年もの間には実際に軽減していきます。また、これらは、重大な神経疾患を示すものではありません。このような症状はリラクゼーション法である程度軽減するかもしれません。一部の運動系および知覚系システムにはカルバマゼピン(テグレトール)が反応する可能性もありますし、運動症状にはプロプラノロール(インデラル)が反応する可能性もあるでしょう。


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記憶力および認知力の低下

ベンゾジアゼピンは記憶機能およびいくつかの認知機能、特に注意力の持続を損なうことがよく知られていますが、長期服用者の中には離脱後に残存する、継続的な知的能力の低下を訴える人がいます。この問題について、回復が非常にゆっくりである可能性を示す研究がいくつかなされました。治療用量の長期服用者における研究は、最長のもので離脱後たった10ヶ月間しか継続されていません。認知障害は、ゆっくりと回復してはいるものの、少なくともこの10ヶ月間は持続していました。また、不安レベルとの関連性はありませんでした(Tata et al. Psychological Medicine 1994, 24, 203-213)。スウェーデンのいくつかの研究では、ベンゾジアゼピン断薬後4~6年経過しても依然として知的障害が存続する(改善はみられるものの)ことが示されました。しかし、高用量摂取やアルコール摂取が、追加因子となっていたかどうかは明らかではありません。


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ベンゾジアゼピンは脳に構造的損傷をもたらすか?

これらの研究結果は、ベンゾジアゼピンは脳に構造的損傷をもたらし得るかという疑問を提起しました。アルコールと同様、ベンゾジアゼピンは脂溶性であり、脳細胞の脂肪を含んだ膜(脂質膜)に取り込まれます。多年に亘る摂取により、慢性アルコール依存者に見られるように、大脳皮質の萎縮のような物理的変化がもたらされる可能性が考えられること、またそのような変化は、離脱後部分的にしか回復しない場合があることが示唆されてきました。しかしながら、コンピューター断層撮影法(CTスキャン)による複数の研究にも拘わらず、治療用量服用者において、脳の萎縮を示す決定的な証拠は示されていません。また、高用量乱用者における研究結果でさえも、確証は得られていません。ベンゾジアゼピンが、今日の検査法では検知されない、僅かな変化をもたらす可能性はあります。しかし、得られるエビデンスに基づく限り、そのような変化が永続すると考えられる理由はありません。


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消化器系の症状

消化器系の症状が離脱後長期化することがあります。大抵は、以前に胃腸障害の病歴があった人たちです。このような人は、特定の食べ物に一見不耐性を示すことがありますが、真の食物アレルギーを検証する信頼できる検査(特定の食品成分への抗体検査など)ではほとんど毎回陰性です。にもかかわらず、多くの患者が免疫系の障害や腸カンジダ症に罹ったのではないかと感じています。前述したように、ベンゾジアゼピン受容体は腸にも存在し、ベンゾジアゼピン使用あるいは離脱が免疫反応に影響を及ぼす可能性はありますが、このような問題について、現在、明確な科学的エビデンスはありません。慢性過呼吸がヒスタミン(アレルギー反応において放出される物質)の放出を引き起こし、また慢性過呼吸患者において、食物不耐性および“偽性アレルギー反応”の発症率が高いというエビデンスは存在します。食事、呼吸法、カンジダ感染症についてのアドバイスが、Shirley Trickett の著書(この章の末尾に引用)に示されています。通常は、厳格な制限を行う食事療法にこだわることはお勧め出来ません。自然なバランスのとれた食事や規則的な運動などの、理にかなった一般的健康法により、離脱による消化器系症状は徐々に軽快して行きます。


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遷延性症状の対処法

いくつかのベンゾジアゼピン離脱症状は永続するのではないか、完全に回復しないのではないかと危惧する人たちがいます。特に、認知機能障害(記憶、論理的思考など)や他の長期化する症状、例えば、筋肉痛や消化器系障害などについての懸念が提起されています。

そのような心配をしている人は安心してください。中には数年という長期間を要するケースもありますが、離脱後、症状はほぼ間違いなく、着実に軽減していくことを、全てのエビデンスが示しています。ほとんどの人が時間の経過とともに、明らかな回復を経験します。症状は離脱初期の激しさとは全く異なるレベルまで、徐々に軽減していき、最終的にはほとんど完全に消失します。全ての研究で、認知能力と身体症状の着実な回復が、たとえゆっくりではあったとしても証明されています。ほとんどの研究は、離脱後1年を超えて継続したものはありませんが、これらの結果はその研究期間が過ぎても回復が続いていくことを示唆しています。ベンゾジアゼピンが脳、神経系、身体に永久的な損傷をもたらすというエビデンスは全くありません。

長期の症状に悩まされる人にも、有効な方法は沢山あります。例えば:

  1. 身体を動かしてください。運動は脳と身体両方の血液循環および機能を改善します。楽しめるエクササイズを見つけてください。軽い運動からはじめ、徐々に強くし、定期的に継続してください。運動はまた、抑うつに有効で、疲労を軽減させ全身の健康状態を増進させます。
  1. 頭の体操をしてください。頭を使って、脳の効率を高める方法を工夫してみて下さい。例えば、何かのリストを作ったり、クロスワードパズルをしたりしましょう。また、何が自分を一番悩ませているかを見極めましょう。- それを回避する方法は必ずあります。認知機能の再訓練が一時的な障害の回避策を見出すのには有効です。
  1. 興味を増やしてください。取り組むべき関心事を外に見出すことは、頭を使い、モチベーションが高まり、あなたの症状から気を逸らし、人助けにさえなるかもしれません。
  1. 感情を落ち着かせて下さい。何よりも、心配するのを止めて下さい。心配、恐怖、不安はあらゆる離脱症状を増大させます。このような症状の多くは、実際に不安から来るもので、脳あるいは神経系の損傷を示すものではありません。離脱を恐れる人は、ありのままを受け入れて回復について前向きに自信を持って考える人と比べて、より強い症状を呈します。

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離脱後、ベンゾジアゼピンはいつまで体内に残留するのか?

症状が長期化している人からこの質問をよく受けます。遷延性の症状をきたす原因のひとつは、ベンゾジアゼピンが、おそらく脳や骨の組織内深部に潜伏したまま、何ヶ月経過しても体内に残留していることである可能性はあるだろうか?こういう部位からのゆっくりとした排出が離脱症状を持続させている可能性はあるのだろうか?

ベンゾジアゼピンに関する他の多くの問題と同様に、このような質問への回答はまだ明らかではありません。ベンゾジアゼピンの血中濃度を計測したところ、治療用量から離脱した人においては、断薬後3~4週間で検出不可能なレベルに達することが示されました。脳および他の組織内のベンゾジアゼピン濃度に関する情報を得ることは、特にヒトの場合は困難です。ベンゾジアゼピンは確実に脳内に入り込みますし、また、体中の貯蔵脂肪をはじめ、全ての脂肪組織(脂質含有組織)内に溶け込みます。血中濃度が検出不能になった後もしばらく、そのような組織内に残留する可能性はあります。しかしながら、ほとんどの身体組織は、絶え間なく組織を潅流(かんりゅう)する血液と平衡状態にあります。また、ベンゾジアゼピンが、脳のような組織内に“閉じ込められる”可能性を示すメカニズムはまだ分かっていません。脂肪含有量は低いですが、細胞の入れ替わり速度(ターンオーバー)が遅い骨の内部に、ベンゾジアゼピンがいつまで残留するかについてもデータがありません。

それでもやはり、離脱後のベンゾジアゼピンの体内組織への残留濃度は、非常に低いはずです。そうでなければ、薬剤が検出可能な量で、血中に漏れて戻ってくることが考えられます。このような濃度が、臨床的影響を引き起こすほど十分なレベルであるとか、何らかの直接的影響が、何ヶ月あるいは何年も持続し得るとは想像しがたいことです。しかしながら、たとえ低濃度ではあっても、そのごく少量のベンゾジアゼピンによって、脳内GABA/ベンゾジアゼピン受容体が服薬前の状態まで回復することを妨げられる可能性がないわけではありません。もしそうであるなら、受容体はGABAの自然な鎮静作用(第Ⅰ章参照)に対して耐性を持ち続けることになり、その影響で神経系の過興奮状態を長期化させる可能性は有り得ることになります。遷延性の症状に関与すると考えられるファクターは表4に概説されています。


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エピローグ

この章は未知な点を多く残したまま終了します。ベンゾジアゼピン離脱のストーリーは未完のままであり、今後も様々な側面において、大きな注意を払う必要があります。

(1) 教育

全ての医師およびその他の医療従事者は、ベンゾジアゼピンの処方(短期間限定)、ベンゾジアゼピンの有害作用(特に依存)、そして離脱方法(適切なサポートと併せた緩徐な漸減法)について、より豊富な知識を得て、より良い訓練を受ける必要があります。このような教育を受けるべきは、家庭医(ホームドクター)、精神科医、他の専門家、依存症治療施設のスタッフ、薬剤師、心理士、他のセラピスト、地域看護師などです。世間の認知と一般市民からの圧力を高めることで、この方策を加速させることが出来るでしょう。


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(2) 研究

ベンゾジアゼピンの長期使用による影響について、更なる研究がなされる必要があります。特に、脳構造に与える影響などは、神経心理学テストと併せて、磁気共鳴映像法(MRI)および脳血流量を測定する機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などの最新技術を用いて研究されるべき分野です。また、ベンゾジアゼピンの内分泌系、消化器系、免疫系への作用についてもほとんど研究されていない領域であり、今後の更なる研究が求められます。


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(3) 治療法

不安や不眠のより良い治療法が開発される必要があります。薬が不安や不眠を“治療”することが一体あるのか疑わしいですが、副作用がより少ない医薬品を開発することは可能かもしれません。例えば、ベンゾジアゼピン拮抗薬フルマゼニルを、ベンゾジアゼピンと併用して投与されたラットには、耐性は形成されないにも拘わらず、抗不安作用を発揮するようです。このような併用がヒトにも有効かもしれませんが、経口摂取可能な長時間作用型ベンゾジアゼピン拮抗薬については臨床試験が行われていません。代わりに、ガバペンチン、チアガビン、プレガバリンなどの気分安定抗痙攣薬は、その作用機序がベンゾジアゼピンのそれとは異なるために、期待できるかもしれません。同時に、不安および不眠治療のための心理療法も改良され、もっと広く教えられることが可能なはずです。そして、ここに記したベンゾジアゼピン依存症に陥った人々に対する薬物離脱の方法よりも、もっと優れた方法が開発される可能性もあり得るでしょう。


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(4) 施設の供給

ベンゾジアゼピン依存患者のための施設を造る必要があります。自分の落ち度でもないのに、たまたま依存に陥ってしまったベンゾジアゼピン依存症の患者にとって、アルコールや違法ドラッグの依存を扱う治療施設は適切ではありません。そのような施設では通常、融通のきかない“契約”に基づいたルールを適用し、離脱の速度も速すぎて、離脱症状に苦しむベンゾジアゼピン依存患者には全く不向きです。個々の患者に合わせた、柔軟で、共感的、支持的なカウンセリングを受けられる、ベンゾジアゼピン離脱を専門にするクリニックが大いに必要なのです。現時点では、最低限の財源でこのギャップを埋めようと果敢に奮闘しているボランティアのサポートグループが、本当に僅かながら存在するだけです。適切な財源を用意することで、離脱プロセスの厳しい局面で困っている患者が、病院とは異なる支援型の環境で短期間の休息を取ることが出来る、滞在型宿泊施設を提供することも可能になるでしょう。


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最後になりますが、21世紀にもなって、世界中で数百万の人々が未だにベンゾジアゼピンの有害作用に苦しんでいることは悲劇です。1950年代に、ベンゾジアゼピンが医療現場に導入されてからほぼ50年も経過した現在、このような手順書が必要とされるようではいけないのです。しかしながら、ここで紹介した多くの患者から得た経験が、医療従事者および一般市民に対して、ベンゾジアゼピン長期服用と離脱に関連する諸問題への関心を高めることに寄与するよう願っています。


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参考文献

  • Trickett, S. (1998) Coming Off Tranquillisers, Sleeping Pills and Antidepressants. Thorsons, London.

  • Trickett, S. (1994) Coping with Candida. Sheldon Press, London 1994.

  • Tyrer, P. (1986) How to Stop Taking Tranquillisers. Sheldon Press, London.


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