第Ⅲ章(前半)
ベンゾジアゼピン離脱症状、急性および遷延性
第Ⅰ章では、ベンゾジアゼピンが体内でどう作用するか、また、いかにして耐性や依存が形成されるかについて言及しました。第Ⅱ章では、緩徐な漸減(ぜんげん)の必要性について論じ、漸減法の実践例を示しました。この章では、ベンゾジアゼピンが身体から抜けていく離脱中および離脱後に何が起こるかについて言及し、離脱症状および、それが起きた場合の対処法について焦点を合わせながら解説します。
第Ⅱ章で概説したように、個々の必要性に合わせて調整した緩徐な漸減により、離脱症状は最小化され、かなり避けられるということは、いくら強調してもし過ぎることはありません。しかし、ベンゾジアゼピン長期服用者の中には、たとえ服薬が継続していても“離脱”症状が現れる人がいます。これは薬剤耐性の形成によるものですが(第Ⅰ章)、このために、医師は時に薬を増量したり、他のベンゾジアゼピンを追加処方したりすることになります。私のベンゾジアゼピン離脱クリニックに通院した最初の50人の患者の分析では、彼ら全員がベンゾジアゼピン服用中にも拘わらず(彼らのうち12人は、一度に2種類のベンゾジアゼピン処方薬を服用していました)、初診時に症状を呈していました。その症状とは、多岐に渡る精神症状および身体症状であり、通常、ベンゾジアゼピン離脱症状として説明されるものでした。ゆっくりとしたベンゾジアゼピン漸減療法によって、これらの患者において、このような症状の悪化は軽微なレベルにおさまり、そして離脱後軽減していきました。
ベンゾジアゼピン離脱で激しい症状を呈する人というのは、大抵は断薬を急ぎ過ぎたケースです。症状について十分な説明を受けていないことが、しばしば苦痛を増大させ、“自分は頭がおかしくなってしまうのではないか?”などの恐怖感をもたらします。そして、その恐怖そのものが症状を余計に酷く感じさせるのです。少数の患者は、このような恐怖を経験することにより、心的外傷後ストレス障害(PTSD)とも言うべき状態に陥ります。しかし、生じる症状の原因および性質を適切に理解することは、ベンゾジアゼピン離脱に伴う混乱や恐怖を和らげることに大いに役立ち、また、長期に亘る後遺症を予防するためにも有効です。離脱反応とは実は、アルコール、阿片、抗精神病薬、抗うつ薬など長期間用いるさまざまな薬剤を中止した時に起きる正常な反応であり、狭心症や高血圧症の薬でさえも離脱反応を起こすことがあります。
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離脱反応のメカニズム
一般に薬物離脱反応とは、その薬剤の初期作用がちょうど鏡像のように逆になった形で現れる傾向があります。ベンゾジアゼピンの場合は、慢性使用後に突然断薬すると、夢を伴わない睡眠に代わって不眠症や悪夢が現れ、筋弛緩は筋緊張や筋痙攣(けいれん)に、落ち着きは不安やパニックに、抗痙攣作用はてんかん性発作に代わります。このような反応は、薬剤が慢性的に存在することで生じていた神経系の適応が、薬が切れたことで突然に顕在化して引き起こされるのです。急激な薬剤の消失により、ベンゾジアゼピンによって抑え込まれていたあらゆる神経系がもはや何の抵抗も受けなくなり、堰を切ったように反跳的に活動を亢進させます。神経系のほとんど全ての興奮系メカニズムが過活動状態に陥り、薬のない状態への新たな適応が形成されるまで、脳および末梢神経系が過興奮状態となり、ストレスに対して極度に脆弱になります。
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急性離脱症状
ベンゾジアゼピンの最も顕著な作用は抗不安作用です。そのために、トランキライザーとして開発されたのです。それ故、離脱の急性症状のほとんど全ては急性不安症状になります。これらは、ベンゾジアゼピンに触れたことさえない人の不安状態にもみられる症状であり、ベンゾジアゼピンが発見される遥か前から、不安による身体症状および精神症状として認められています。しかしながら、症状群のうちいくつかは、ベンゾジアゼピン離脱に特に特徴的なものです。それらには知覚刺激(音、光、触覚、味覚、嗅覚)に対する過敏性や知覚変容(例えば、床がうねる、身体が揺れる、壁や床が傾く、綿毛の上を歩いているみたい、などの感覚)があります。また、離人感、非現実感、皮膚がピリピリする感覚や痺れも、不安状態の人に通常見られる場合よりは高頻度に現れます。幻視、身体感覚の変容(“頭がサッカーボールや風船のように感じる”など)、皮膚上を虫が這う感覚、筋肉がピクピクする(筋れん縮)、体重減少などは、ベンゾジアゼピン離脱ではよくありますが、不安状態では稀です。
表1に、私の離脱クリニックに通う患者が自発的に訴えた症状リストを示しています。たしかに長いリストですが、おそらく全てを網羅してはいないでしょう。もちろん、全ての患者が全ての症状を経験するということはなく、また、必発の症状というのもありません。離脱症状とは、しばしば、その個人の一番脆弱なところを探し出して発症するように思えます。頭痛になりやすい人の場合は、離脱中、特に頭痛が悪化するかもしれません。“過敏性腸症”になりやすい人の場合は、消化器系症状が悪化するかもしれません。これらの症状は、ほとんどの場合一過性であり、最小限に抑えられます。症状の原因を理解すれば、恐れも弱まり、重大あるいは奇異な出来事と感じることも少なくなるでしょう。更に患者は、症状の多くを軽減あるいはコントロールするテクニックを習得することも出来るでしょう。自分で出来ることは沢山あるのです。
表1. ベンゾジアゼピン離脱症状
精神症状
易興奮性(イライラ、落ち着かない)
不眠、悪夢、他の睡眠障害
不安の増大、パニック発作
広場恐怖、社会恐怖
知覚変容
離人感、非現実感
幻覚、錯覚
抑うつ
強迫観念
妄想的思考
激怒、攻撃性、易刺激性
記憶力、集中力の低下
侵入的記憶
渇望(まれ)
身体症状
頭痛
痛み/筋肉の凝り - (四肢、背中、首、歯、顎)
ピリピリする感覚、痺れ、感覚の変容(四肢、顔、胴体)
脱力(例えば下肢に力が入らない)
疲労感、インフルエンザ様症状
筋肉がピクピクする(筋れん縮)、ミオクローヌス*、チック、“電気ショック様感覚”
震え
めまい、もうろう感、バランス失調
霧視(ぼやけて見える、目がかすむ)/複視(二重に見える)、眼痛、ドライアイ
耳鳴り
過敏性 -(光、音、触覚、味覚、嗅覚)
消化器系症状 -(吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、腹部膨満感、嚥下障害)
食欲/体重の変化
口渇、金属様味覚、嗅覚異常
潮紅/発汗/動悸
過呼吸
排尿障害/月経異常
皮膚発疹、かゆみ
ひきつけ(まれ)
[*訳註:「ミオクローヌス」とは、筋肉の突然の収縮により、身体の一部が瞬間的に動く不随意運動のこと。入眠時によく起こる。]
これらの症状は全て、ベンゾジアゼピンから離脱中の患者が訴えたものです。何か特定の順番で並べられたものではありません。また、ベンゾジアゼピン離脱に限った特異的症状というものもほとんどありません。リストはおそらく、全ての症状を網羅したものではありません。患者個々により、それぞれ異なる症状の組み合わせを経験します。これら全ての症状を経験するとは考えないで下さい!
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個々の症状とその原因および対処法
不眠、悪夢、睡眠障害
ベンゾジアゼピンによってもたらされる睡眠は、最初は元気を回復したような感覚があるかもしれませんが、正常な睡眠ではありません。ベンゾジアゼピンは夢を見る睡眠(レム睡眠)および深い睡眠(徐波睡眠)の両方を妨げます。ベンゾジアゼピンが追加的にもたらす睡眠とは主に浅い睡眠であり、ステージ2睡眠と呼ばれています。レム睡眠および徐波睡眠とは最も大切な2つの睡眠ステージあり、健康のために非常に重要です。断眠研究*によると、いかなる欠乏も、環境が整えば、正常レベル以上にリバウンドしてすぐに補われることが示されています。
〔*訳註:断眠研究とは睡眠を強制的にとらせないようにするとどうなるかを調べる研究〕
ベンゾジアゼピン常用者において、レム睡眠および徐波睡眠は、服薬前のレベルに戻る傾向がありますが(耐性を生じるため)、当初の睡眠欠乏は残ります。離脱すると、たとえそれが何年もベンゾジアゼピンを使用した後であったとしても、レム睡眠は反動で著しく増大し、いっそう激しくもなります。結果として、夢がより鮮明なものになり、悪夢を見て、夜中に頻繁に目を覚ますことがあります。これは不快ではありますが、ベンゾジアゼピン離脱の正常な反応であり、回復が始まっているサインでもあります。レム睡眠の不足が取り戻されれば(通常それは4~6週間後のことですが)、悪夢を見る頻度は減り、そして次第に消えて行きます。
離脱後の徐波睡眠の回復は、より長期間を要するようです。おそらく、不安レベルが高く、脳が過活動状態で、完全にリラックスするのが困難なためでしょう。入眠が困難な患者がいます。“むずむず脚症候群*”を経験したり、まさに眠りに落ちようとする時に突然、筋肉が痙攣(ミオクローヌス [上述の訳註参照])したり、突然の大きな音の幻聴(入眠時幻覚)に驚いて再覚醒したりすることもあります。これらの睡眠障害もまた、数週間、時には数ヶ月続くことがあるかもしれません。
[*訳註:「むずむず脚症候群」とは、寝床で横になったり、座ったりしている時に、脚に不快感を覚えじっとしていられなくなる症候群のこと。その不快感には、患者によって、かゆみ、火照り、虫が這っている感覚、ソワソワ感など様々なものがある。]
しかしながら、時間が経てば、このような症状はどれも落ち着いていきます。睡眠への欲求は非常に強いため、やがて正常な睡眠が回復します。それまでの間、就寝前に紅茶、コーヒー、その他の刺激物、アルコールなどを避けたり、リラクゼーション・テープを聴いたり、不安対処法や運動を行ったりして睡眠衛生を心がけることが有効でしょう。漸減期間中、ベンゾジアゼピンの服用量の全てあるいはそのほとんどを、夜に摂取することもまた有効でしょう。場合によっては、別の薬剤が必要になることがあるかもしれません(後述の補助薬の項を参照)。
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侵入的記憶
ベンゾジアゼピン離脱中の患者がしばしば訴える症状で、強く目を惹かれるものに、侵入的記憶と思われる現象の発現があります。彼らは、何年もの間考えたり、会ったりしたこともない人の記憶が、突然、鮮明に思い起こされることがあると言います。時には、鏡を見ている時に他の人の顔が現れることがあるようです。その記憶は、繰り返し現れ、必要でもないのに思い出されるようで、他の考え事を妨げます。このような記憶に興味深いことは、鮮明な夢を見始めた時と同時に出現することがよくあるということです。これらは、減薬開始後1週間あるいはそれ以上経過してから遅発することがあります。最近の睡眠研究によると、特定の睡眠ステージ(レム睡眠および徐波睡眠)は記憶機能に重要なことが示されており、夢と記憶は関連していると思われます。いずれにしても、時には悩ましい症状ではありますが、この現象は正常な記憶機能の回復が始まる兆候でしょうし、回復に向かう一歩として歓迎されることです。
記憶力および集中力の低下もまた、ベンゾジアゼピン離脱の特徴であり、おそらく薬剤の影響が残っているためでしょう。患者はすぐに言われたことを忘れるので、助言者は、毎週毎週、何度でも繰り返し励まし続ける心積もりが必要でしょう。
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パニック発作
パニック発作は、離脱中に初めて出現する場合がありますが、中にはこの辛い症状を長期間に亘って経験している患者もいます。女優のグレンダ・ジャクソンは、ベンゾジアゼピンによるパニック発作ではありませんでしたが、次のように表現していました。「あぁ、パニック発作で死にそうだわ。心臓のドキドキがすごくて、胸から飛び出してしまいそう。喉が詰まりそうで、息が出来ない感じ。ガタガタと酷く震えて、凍えるような寒気も感じるの。」(サンデー・タイムズ誌、15頁、1999年10月17日) このような発作はある種の不安状態に見られる特徴でもあり、中枢および末梢神経系の過活動、特に通常は緊急事態に対する恐怖および逃避反応に関係する中枢の過剰な活動が、いっせいに起きた結果発現するものです。ベンゾジアゼピンによって抑制されていたこれらの恐怖反応をコントロールする中枢が、薬が抜けていくにつれて、再び新たな勢いを得て反跳するのかもしれません。
パニック発作は辛いですが、決して死ぬことはありませんし、通常は続いても30分そこそこです。しかも、発作をコントロールする仕方を学ぶことも可能です。様々な対処法をこれから述べます。パニック発作をコントロールする技術は訓練によって上達するものですから、自宅で取り組む必要があります。しかしながらパニック発作(および、その他の離脱症状)は、外出中、不適切な時に襲ってくる傾向があります。そのような状況では、逃げ出したい衝動に耐えて、しっかり踏みとどまることが大切です。ピーター・タイラー医師は、スーパーマーケットでショッピングカートを押している時に、パニック発作のような激しい離脱症状が襲ってきた場合、次のような対処法を示唆しています。:
"胸の上部だけでなく、肺の奥まで空気をしっかり吸い込むことを確かめながら、非常にゆっくりと、深い呼吸をしてください。"
"そうしているうちに、腕や手がリラックスして、ショッピングカートを強く握りしめて白くなっている手に血の気が戻ってくることに気付くでしょう。"
"あなたの両手から緊張が抜けていくことを感じるまで動かないで下さい。深呼吸するたびに、緊張が抜け出すことを感じてください。そうするにつれて、症状は軽減あるいは消失していくでしょう。"
ピーター・タイラー著 「鎮静剤の服用をやめるには」Sheldon Press, London 1986, p.63.
薬に頼ることなくパニック発作をコントロールできることが分かれば、自信への大きな後押しとなります。また、新たなストレス対処法の習得は、しばしば、ベンゾジアゼピン離脱の成功への鍵となります。パニック発作は通常、離脱後6週間以内に消失します。
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全般性不安、パニック、恐怖症
不安症状のある人に有効な非薬物療法は沢山あります。それらのいくつかを以下に示しますが、それぞれの療法を詳細に説明したり、それら全てについて言及したりすることは、本書の範囲を超えています。これらはどれも、トランキライザーから離脱する全ての人に不可欠なものではありませんが、困難を覚えている人には有効な場合があります。
(1)心理療法
行動療法 - 不安に関連した行動を、より適応した行動に置き換えることを目指す。
- 漸進的な筋肉リラックス法(筋緊張や不安の軽減)
- 腹式呼吸(不安症の多くが過呼吸)
- 誘導イメージ療法(心地良く、リラックスできる状態への集中; 音楽や穏やかな言葉が録音されたリラクゼーション・テープも自宅で活用できるでしょう。)
- 計画的に恐怖を感じる状況に身を置き、ゆっくりとその(曝露の)度合いを調節し強めながら、不安が減弱するところまでもって行く。
認知行動療法 - 不安を誘発する状況に対して異なる反応ができるように、患者に自分自身の思考パターンを理解するように教える。
- 不安対処技能を向上させるための心理療法や不安管理訓練(不安を誘発する状況を回避する技術や、不安が起きた場合はそれに対処する技術を習得する)
- 認知技能の再訓練
(2)補完代替療法
- 鍼治療
- アロマセラピー
- マッサージ、リフレクソロジー
- ホメオパシー
(3)運動療法やその他のテクニック
- スポーツ - エアロビクス、ジョギング、水泳、ピラティス法*、ウォーキングなど、楽しいと感じる活動的なことなら何でもよい。
- ヨガ - 多くの種類、技法があります。
- 瞑想 - 多くの種類、技法があります。
〔*訳註:ピラティス法とはドイツの従軍看護師ピラティスが始めた運動療法で、呼吸法を活用しながら、主に体幹の深層筋をゆるやかに鍛える方法〕
これら技法のうちどれを選択するか、また、それぞれにどう反応するかは個人によりかなり大きく左右されます。上に挙げた様々な心理技法は正式に試され、非常に優れた長期的成果を示しています。しかしながら、その成果は、治療士のベンゾジアゼピンについての知識や、治療士とクライアント(患者)の間のラポール(信頼関係)など、治療士の技能により大きく左右されます。
補完代替療法は、いずれも治療中はリラックスに有効ですが、その効果は一時的なものになりがちです。例えば、私のクリニックの患者で、中国式および西洋式両方のトレーニングを受けた鍼療法士による、12回の鍼治療のセッションを受けた人たちがいましたが、施術により楽しみやリラックスは得られたけれども、長期的には、鍼治療を受けなかった人と比較して特に改善はありませんでした。
ヨガや瞑想療法で非常に良い効果を得る人が一部にいます。痙性麻痺のため車椅子生活を余儀なくされ、視力も失っていたある患者は、瞑想療法の助けを得て、全てのベンゾジアゼピンを止めることに成功しました。彼の筋緊張は実際に好転したのです。しかしながら、全ての患者が、これらの療法に必要とされる精神的、身体的集中力を注ぐことが出来るわけではありません。身体的運動は、それぞれの能力の範囲内で行うかぎりは、全ての人に有効でしょう。
概して、いろいろな療法の有効性は個人によって異なり、個々人に合わせる必要があります。あなたがもし、ある療法を信用するならば、おそらくそれは、あなたにとって役立つことでしょう。
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知覚過敏
ベンゾジアゼピン離脱の特性として、あらゆる知覚(聴覚、視覚、触覚、味覚、嗅覚)に対する感度の増大があります。ひどい場合、これら知覚過敏は厄介なものとなります。ある女性は時計のチクタクという音が耐えがたく大きく聞こえたため、家の時計全てを止めなければいけませんでした。また多くの人が、通常の光が余りにも眩しく見えるため、サングラスをかけなければいけませんでした。皮膚や頭皮が非常に過敏になり、皮膚上を虫が這っているように感じる人もいます。心臓の鼓動が聞こえたり、耳の中で‘シー’とか‘リンリン’など摩擦音や鳴り響く音が聞こえたりする場合もあります(耳鳴り、下記参照)。口中の金属味覚を訴える人も多く、体から発せられるように感じる奇妙で不快な臭いを感じる人もいます。不快な臭い(通常他人は気付かない)も含めて、このような知覚症状は、ベンゾジアゼピンとは関係のない不安状態でも言及されています。不眠やパニックのように、これらもおそらく中枢神経系の過活動の影響でしょう。このような過覚醒は、ベンゾジアゼピンによって抑え込まれる正常な恐怖反応および逃避反応の一形態ですが、離脱中にリバウンドを起こしているのです。
このような知覚症状は、離脱が進むにつれて正常な方向に回復していきます。そして新たな、一見驚くほどの澄んだ知覚に喜ぶ人もいます。彼らは、離脱の際に初めて、いかに彼らの感覚がベンゾジアゼピンによって不明瞭にさせられていたかに気付きます。ある女性は、芝生の緑が鮮やかに見えるようになり、突然、芝生の葉っぱ一つ一つが、はっきりと見えるようになった時の感動を教えてくれました。それは、ヴェールを取り去ったかのようでした。従って、これらの知覚症状に恐怖を感じる必要はありません。これらは回復のサインとみなすことが出来るのです。
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離人症、現実感喪失
離人感および非現実感は、不安状態でも起こりますが、ベンゾジアゼピン離脱の際にも伴います。最も頻回にみられるのが、高力価のベンゾジアゼピンから急速に離脱するときです。また、クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)からの離脱の際に特に顕著であるという話も聞きます。この状態にある時、患者は身体から分離し、まるで外側から自分の身体を観察しているかのように思えます。似たような経験が、臨死状態でも報告されています。身体の上を浮遊したり、眼下に起きている事象から分離されていたりする感覚を覚えるケースです。また、極限状態に置かれた人や拷問を受けている人にも、これらの現象は報告されています。ベンゾジアゼピンに特異的な現象でないことは明らかです。
このような経験はおそらく、耐えがたい苦痛に直面した時の防御として発達した、正常な防衛反応を意味しています。動物に見られる、回避不能な危機に直面した時の“フリージング(凍りついたように身体が固まってしまうこと)”に類似した、原始的な脳メカニズムに関係しているのかもしれません。他のベンゾジアゼピン離脱症状と同様に、これらの感覚は時の経過と共に解決していきます。異常あるいは頭がおかしくなったと考えないで下さい。
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幻覚、錯覚、知覚変容
ベンゾジアゼピン離脱症状の中で、気が狂ってしまうのではないかと最も感じる恐怖は幻覚です。ゾッとするような幻覚は、高用量からの急激なあるいは突然の離脱を行なった人に起きていましたが、第Ⅱ章で概説したような緩徐な漸減を行なえば極めて稀な現象なので、読者の皆さんは安心してください。もし幻覚が起こるとしても、大抵は視覚的なものです。例えば、肩の上に大きなコウモリが座っていたり、人の頭から角が生えていたりする幻覚が見える患者がいました。しかしまた、聴覚、嗅覚、触覚系の幻覚が起きることもあります。幾分怖さが軽いものとして、小動物の幻覚があります。通常は昆虫です。これは、皮膚上を昆虫が這っているように感じる症状に関係しているのでしょう(コカインやアンフェタミンの離脱にも類似の幻覚が起こります)。幻覚は、時に錯覚や知覚の誤りと混じり合って出現します。たとえば、ドアに掛けられたコートを人と錯覚することもありますし、一見傾いて見える床や、内側へ傾斜して見える壁は、知覚の変容から来るものです。
これらの奇異な症状のメカニズムはおそらく、振戦せん妄(アルコール離脱の“振戦せん妄”で見られる幻覚。古典的には、ピンクの像やネズミの幻覚)を引き起こすメカニズムに類似していると思われます。第Ⅰ章で言及したように、ベンゾジアゼピンは脳内に広範な変動を引き起こし、これを突然に中断すると、ドーパミン、セロトニン、その他の神経伝達物質が制御されないまま放出される可能性があり、これらは、精神異常に伴う幻覚や、アルコール離脱やコカイン、アンフェタミン、LSD乱用時の幻覚の原因となります。
その時には現実と思われていた幻覚が、“単なる”幻覚だと一旦認識できるようになれば、恐怖はすぐに少なくなります。それらは狂気の始まりを示す兆候ではなく、単にベンゾジアゼピンが脳にいたずらをしているだけで、時間の経過とともに、脳は自らを元の状態に立て直します。良い助言者なら大抵は、ベンゾジアゼピン離脱によって引き起こされた幻覚に苦しむ患者によく説明し、安心させることが出来るでしょう。緩除な離脱を行なえば、いかなるケースでも、このような幻覚に悩まされることはないはずです。
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抑うつ、攻撃性、強迫観念
抑うつ症状は、ベンゾジアゼピン長期服用中にも、離脱中にも発症するよくある症状です。他の精神・身体症状が入り混じって患者を悩ませることを考慮すると、彼らが抑うつ状態になることは驚くべきことではありません。時にこの抑うつは、精神科的専門用語を用いると、“大うつ病性障害”に相当するほど重篤なものになります。この障害には自殺リスクもあり、心理療法や抗うつ薬治療が必要となることがあるかもしれません。
重篤な抑うつは、ベンゾジアゼピンによってもたらされた脳内の生化学的変化に起因している可能性があります。ベンゾジアゼピンは、セロトニンおよびノルエピネフリン(ノルアドレナリン)という、抑うつに深く関係していると考えられている神経伝達物質の活動を低下させることが知られています。選択的セロトニン再取込み阻害薬(プロザックのようなSSRI系抗うつ薬)をはじめとした抗うつ薬は、このような神経伝達物質の活動を賦活化させることにより作用すると考えられています。
離脱における抑うつは遷延化することがあります(遷延性の症状の項を参照)。そして、もし数週間以内に軽減せず、安心させたり励ましたりするだけでは反応しない場合には、医療的アドバイスを求め、抗うつ薬摂取も選択肢として考慮するに値します(補助薬の項を参照)。離脱における抑うつは、ベンゾジアゼピンとは無関係な抑うつ障害の場合と同じように、抗うつ薬に反応します。もし、多くの場合そうであるように、抗うつ薬を既にベンゾジアゼピンと一緒に併用している場合には、ベンゾジアゼピン離脱が完了するまでは、抗うつ薬を継続摂取することが重要です。抗うつ薬からの離脱は後の段階になって別に考慮されるべきです(第Ⅱ章、スケジュール13参照)。
攻撃性の障害もまた、セロトニンの低活動性と関係があります(他のファクターのうちのひとつとして)。ベンゾジアゼピン離脱中の易怒性や易刺激性の出現も、おそらく、抑うつの場合と類似のメカニズムが関係しているのでしょう。しかしながら、このような症状は通常自然に消失していきますし、長期に亘り持続するものではありません。強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder: OCD)もまたSSRIに反応します。これは類似のメカニズムを示唆するものでしょう。強迫性の症状は離脱中に一時的に増大することがあり、それは不安や抑うつが混じり合い反映されているように思われます。これらは不安レベルが低下するにつれ、自然に解決していく傾向にあります。
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筋肉症状
ベンゾジアゼピンは筋弛緩薬として効果があります。臨床的には、脊髄疾患や脊髄損傷にみられる痙性(筋緊張)から、破傷風や狂犬病の耐え難い筋痙攣に至るまで広く使用されます。したがって、ベンゾジアゼピンを長期服用後に中断すると、その反跳で筋緊張が増大することは驚くべきことではありません。この反跳現象がベンゾジアゼピン離脱に見られる症状の多くの原因となっています。四肢、背中、首、顎に起こる筋硬直はよく報告されます。持続的な筋緊張が、おそらく、類似の分布を示す筋肉痛の原因となっているのでしょう。頭痛は通常、“緊張性頭痛”で、首の後ろ側、頭部、額の筋肉の収縮によるものです。しばしば、“頭の周りをバンドできつく縛られた感覚”などと表現されます。顎や歯の痛みは、おそらく、睡眠中に無意識に起こす意図しない顎の食いしばりによるものでしょう。
同時に、筋肉に刺激を伝える神経は過興奮状態にあります。これが原因となり、振戦(ふるえ)、チック、ミオクローヌス(筋肉の突然の収縮による、身体の一部の瞬間的な不随意運動)、筋痙攣、筋肉のピクピクとした動き、ほんの僅かな刺激で跳び上がってしまうなどの現象を引き起こします。これらの過活動状態の持続は全て、疲労感や脱力(例えば、下肢に力が入らない)の一因となります。加えて、筋肉の協調運動がうまくいかず、特に目の細かな筋肉の協調運動に障害が出ると、モノがぼやけたり(霧視)、二重にみえたり(複視)、瞼の痙攣(眼瞼痙攣(がんけんけいれん))さえも引き起こすことがあります。
このような症状のどれも有害なものではありません。また、その原因を理解してしまえば、心配の種となることもありません。実際、これらの筋肉痛や筋硬直は、日頃不慣れな運動をした後に起こる普通の筋肉痛や硬直とほとんど違いはありません。十分にトレーニングを積んだ運動選手でさえも、マラソンを走った後には、筋肉痛や筋硬直は確実に予想される症状でしょう。
これらの症状を軽減させる方法は沢山あります。例えば、多くのスポーツジムで行なわれているような筋肉のストレッチング・エクササイズ、適度な運動、温かいお風呂、マッサージ、リラックス効果のある運動全般などです。最初は、一時的な回復しかないもしれませんが、定期的に行なうことにより、最終的には自然にもたらされる正常な筋緊張レベルへの回復を早めることも可能です。
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身体の感覚
ピリピリ感、チクチク感、部分的な痺れ、電気ショック様感覚、熱感、冷感、かゆみ、深部の灼熱痛といった奇妙な感覚はどれも、ベンゾジアゼピン離脱中にはよくある現象です。これらの感覚について正確に説明するのは困難ですが、運動神経と同様に、知覚神経が脊髄および脳内の接合部も含めて、離脱中は過興奮状態になります。皮膚、筋肉および骨に付着する腱組織にある感覚受容器が、通常なら反応するはずもない微弱な刺激に反応し、無秩序にインパルス(電気信号)を発射しているのかもしれません。
私のクリニックで、このような症状を呈する患者の神経伝導検査を行ないましたが、異常は見つからず、例えば、末梢神経炎の兆候も示されませんでした。しかしながら、この症状は時に神経内科医を困惑させるものでした。痺れ、筋肉の痙攣、複視を併発している3人の患者が、多発性硬化症と診断されています。患者がベンゾジアゼピンを断薬するとすぐに、全ての症状が消失したことで、この診断もなくなりました。
このように、これらの知覚症状には当惑させられますが、通常は心配する必要はありません。ごく稀に、消失せずに残存することがあります(遷延性症状の項を参照)。ここでも、筋肉症状の箇所で提示したものと同じ方法が(上述)、これら知覚症状の軽減に効果があるでしょう。通常、これらは離脱後消失していきます。
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心臓と肺
動悸、心悸亢進、頻脈、潮紅、発汗、息切れは、パニック発作によく伴う症状です。しかし、パニックがなくとも起こることがあります。それは、心臓や肺の疾患ではなく、単に自律神経系の過活動の発現によるものです。パニック発作の項で紹介したように、ゆっくりとした深呼吸とリラックスをすることが、このような症状のコントロールに有効でしょう。心配する必要はありません。バスに乗ろうと急いで駆け足になる時には、このような症状があっても正常なものとして受け取られるはずです。そのような場合に問題ないように、これらの症状にも害はありません。
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バランスの障害
ベンゾジアゼピン離脱中の人で、足元がおぼつかない感覚を訴える人がいます。時には、まるで一方に押しやられるような感覚がしたり、目が回るように感じたりすることがあります。安定した運動機能の制御やバランスの維持をつかさどる重要な器官は、脳の小脳と呼ばれる部分です。この器官にはGABAおよびベンゾジアゼピン受容体(第I章参照)が密集しており、ベンゾジアゼピンが作用する主要な部位となります。アルコールと同じように、ベンゾジアゼピンの過量服薬により、歩行の不安定、発語不明瞭、まっすぐ歩けないなど全身の協調運動障害を引き起こします。ベンゾジアゼピン離脱後、小脳系機能が再安定するのにしばらく時間がかかるかもしれません。症状はこのプロセスが完了するまで続く可能性があります。対策として、まず目を開けて片足立ちをし、そして次に目を閉じてやってみる、といった訓練が回復を早めるでしょう。
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消化器系の障害
離脱中あるいは離脱後にも消化器系機能に全く問題を呈しない人が中にはいます。彼らは食事をより楽しんでいることに気付くことさえあるようです。一方、おそらく体質的な傾向もあり、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)に伴う一連の症状を訴える人もいます。その症状とは、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、鼓腸、ガス性腹部膨満、胸焼けなどです。かなりな数の人達が、これらの症状をとても不快と感じて、病院で消化器系の検査を受けました。しかし、大抵は異常が見つかることはありません。これらの症状は、腸の運動や分泌機能を制御する自律神経系の過活動が原因のひとつである可能性があります。これはストレスに非常に敏感に反応し、ベンゾジアゼピン離脱によるストレスも含まれます。更に、腸にはベンゾジアゼピン受容体が存在します。これらの受容体の機能は何なのか、また、ベンゾジアゼピンやベンゾジアゼピン離脱によって、受容体がどのような影響を受けるのかは明らかではありせんが、これらの変化が、腸の過敏性の増大に何らかの関与をしている可能性があります。
離脱中、時に、かなりの体重減少(3.5~4.5キログラム、あるいはそれ以上)が起きることがあります。動物実験において、ベンゾジアゼピンは食欲を亢進させることが分かっており、この体重減少は食欲に対するリバウンド効果の可能性があります。一方、離脱中、体重が増加する人も中にはいます。いずれにしても、体重の変化は心配するほど深刻なものではなく、離脱後しばらくすると、通常の体重に回復します。少数ですが、食べ物を飲み込むことが困難な人もいます。人前で食事をする際に特に喉が締め付けられたように感じます。これは通常、不安のサインであり、不安状態で良く知られた症状です。リラックスを心がけ、ひとりで食事をして、一口分を少なくし、よく噛んで飲み物と一緒に急がずに食べることで問題は改善し、不安レベルの低下とともに症状は解決していくでしょう。
ほとんどの消化器系の症状は離脱後改善しますが、少数の人々では症状が残り、遷延性の症状となって、食物アレルギーやカンジダ感染症の懸念をもたらすことがあります。これらの疑問については、遷延性症状の項で更に言及します。
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免疫系
「どうして私はこんなに多くの感染症になるのでしょう?」 これは、ベンゾジアゼピン離脱中の患者からよく尋ねられる質問です。離脱中の患者は、風邪、副鼻腔炎、耳感染症、膀胱炎、口腔カンジダ症、膣カンジダ症、その他、皮膚や爪の真菌感染症、唇の割れ、口内炎、インフルエンザなどに罹患しやすいようです。また、一部の細菌感染症治療に用いられる、抗生物質に対する有害反応を訴えることもよくあります。
ベンゾジアゼピン離脱中の患者に、感染症の発症率の増大が本当にあるのかどうかは明らかではありません。何故なら、対照集団(ベンゾジアゼピンを投与されていない点を除けば、投与患者群と類似した特性を持つ人々からなる別の集団)との比較が行われていないためです。しかしながら、多くのファクターが免疫機能に影響を与え、そのひとつにストレスがあります。ストレスは、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を増加させますが、コルチゾールには免疫を抑制する作用があるからです。また、もうひとつのファクターが抑うつです。これもストレスに関係し、コルチゾールの分泌増大を伴います。コルチゾールレベルの上昇により、感染症への抵抗力が減退し、初期の感染症を突然増悪させることもあり得ます。ベンゾジアゼピン離脱が大きなストレスになり得ることは明らかですが、奇妙なことに私がテストした患者では、血中コルチゾール濃度は低い値でした。このように、この問題は不可解なままであり、おそらく今後の研究課題となるでしょう。ベンゾジアゼピン離脱を実行している人へお伝えしたいことは、健康的なライフスタイルを送るよう努めてくださいということです。それは、バランスのとれた食事、十分な運動と休養、可能ならば余計なストレスを回避することなどです。緩徐な漸減を行うことが、離脱によるストレスを軽減させる最適な方法です(第Ⅱ章)。
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内分泌系の障害
ベンゾジアゼピンが、内分泌系に影響を与えることに疑いの余地はありません。しかしヒトにおいては、ベンゾジアゼピン長期服用中についても、あるいは離脱中についても、どちらの場合も詳しく研究されていません。多くの女性が生理の問題を訴えますが、一般人においてもよくあることですし、直接的にベンゾジアゼピンに起因していることを示すエビデンスはありません。一部のベンゾジアゼピン長期服用女性に子宮摘出手術歴がありますが、これもまた、ベンゾジアゼピン使用との直接的因果関係を示すエビデンスはありません。時に、ベンゾジアゼピン服用中の男性および女性の両方が、胸の腫大や腫脹を訴えるということは、ベンゾジアゼピンが乳腺刺激ホルモン、プロラクチンの分泌に影響を与えている可能性があります。ベンゾジアゼピンによる内分泌系の症状は離脱後改善します。
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発作、痙攣
ベンゾジアゼピンは強力な抗痙攣薬です。てんかん発作重積状態(頻発する連続的な発作)の患者や、薬剤(例えば、三環系抗うつ薬)の過量服薬による痙攣発作を呈する患者の命を救うこともあります。しかしながら、特に高力価のベンゾジアゼピンからの急速な離脱により、リバウンド反応としててんかん発作を引き起こすことがあります。ゆっくりと排出されるベンゾジアゼピン(例、ジアゼパム)の使用や、緩徐な漸減を行った場合には、この発症率は極めて稀です。もしこのような状況で痙攣発作が起きた場合、通常は単回の発作で終わり、持続的な損傷は起こりません。急速離脱に見られる他の現象として、精神病症状、重篤な錯乱およびせん妄があります。しかしまた、緩徐な漸減を行うことにより、これらの症状が起こることは滅多にありません。第Ⅱ章で概説した離脱スケジュールに従えば、このような深刻な合併症を回避できるので安心してください。
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ベンゾジアゼピン離脱中の臨時的薬剤の使用
「離脱中、助けになる薬は何かないですか?」 ベンゾジアゼピン漸減プログラムに取り組む患者から時々この質問を受けます。反対に、離脱を決心した時すでに薬に対する強い抵抗を示し、いかなる薬剤、例えば、ほんの鎮痛剤の摂取さえも嫌がる人たちもいます。最初の質問に回答すると、別のベンゾジアゼピンあるいはベンゾジアゼピンと類似の特性をもつ薬剤(例えば、バルビツール酸系薬剤やゾルピデム[マイスリー])の他に、ベンゾジアゼピンの代わりになる薬剤はありません。このような薬剤の使用は、また別の依存に取って代わるだけなので避けなければいけません。(米国の医師の中には、ベンゾジアゼピンを長時間作用型のバルビツール酸系薬剤、フェノバルビタールに置き換え、そしてゆっくりと離脱させる手法を推奨する医師もいます。しかしこの手法は、長時間作用型ベンゾジアゼピンからの直接の漸減を上回る、特別な利点はありません。)
しかしながら、離脱における特定の症状を抑制するのに有効となる可能性があり、常用は推奨されないものの、状況によっては検討してもよい薬剤もいくつかあります。通常、必要となるのは一時的だけでしょうが、時には困難な状況を緩和し、患者が離脱プログラムを進めることを可能にすることがあります。
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抗うつ薬
抗うつ薬は、離脱において検討すべき最も重要な補助薬です。前述のように、離脱における抑うつは現実的問題となることがあり、時には自殺の危険性をもたらすほど激しいものになる可能性があります。しかし、このような激しい事例は、ゆっくりと漸減すれば滅多に起こりません。他の抑うつ症状と同じく、離脱における抑うつは抗うつ薬に反応します。それはおそらく、脳内で同様の化学変化が起きることにより引き起こされるのでしょう。“旧式な”三環系抗うつ薬(ドキセピン[Sinequan]、アミトリプチリン[トリプタノール])も、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI、フルオキセチン[Prozac]、パロキセチン [パキシル])も、どちらも効く可能性がありますから、抑うつが激しい場合には、適応となることがあるかもしれません。主にトランキライザー使用歴のある人たちの中には、離脱中は他のいかなる薬剤の使用にも反対という考えがあります。しかし、ベンゾジアゼピン離脱に関する複数の臨床試験で自殺が起きたことが報告されています。他の全ての状況と同様に、もしベンゾジアゼピン離脱中の抑うつが激しい場合には、何も治療を行わないことは無謀に思えます。
〔訳註:ドキセピン、フルオキセチンは日本では未承認〕
しかしながら、抗うつ薬には欠点がいくつかあります。ひとつは、実際に効果が出るまでに2~3週間、あるいはそれ以上を要することです。このことは、医師が治療を勧める場合、早期に始められるよう、患者および助言者は抑うつに注意を払わなければいけないことを意味します。二つ目の欠点は、三環系抗うつ薬でも、SSRIであっても、投与初期に不安が一時的に悪化する場合があることです。ベンゾジアゼピンの離脱中は、通常不安レベルが高まるため、これはとりわけ危険なことになります。不安の悪化を避けるためには、抗うつ薬は可能な限り低い用量から開始し、2、3週間かけて徐々に増量することが重要です。主治医は直ちにうつ病の“治療用量”からスタートすることを勧めるかもしれませんが、説得されないようにしましょう。また、プロザック(Prozac、 一般名:フルオキセチン)のような抗うつ薬は治療開始時に、患者によっては、激しい興奮状態、暴力性、自殺傾向を引き起こす恐れもあります。低用量から開始し、注意深くモニタリングすることでこのリスクを回避することが出来るでしょう。
抗うつ薬が“効果を発揮する”までは、漸減プログラムを2~3週間中断したいという人も中にはいるかもしれませんが、抗うつ薬治療を開始しても、ベンゾジアゼピンの緩徐な漸減を継続することは通常可能です(しかし、ベンゾジアゼピンの用量を増量することは、強く回避すべきです)。抗うつ薬は抑うつを軽減させるだけでなく、2~3週間後には、抗不安作用も発揮します。実は抗うつ薬は、不安障害、パニック障害、恐怖症の長期治療には、ベンゾジアゼピンよりも有効です。症例によっては、ベンゾジアゼピン離脱プロセスを積極的に助けるケースがあるかもしれません。
抑うつに対して抗うつ薬治療を一旦開始したなら、抑うつの再発を避けるために、服薬は数ヶ月(通常約6ヶ月)継続されるべきです。この期間もベンゾジアゼピンの漸減を継続することが可能です。抗うつ薬は、時には、離脱の最後の段階で有効な盾となることがあります。抗うつ薬からの離脱を開始する前に、ベンゾジアゼピン離脱を完了することが重要です。ベンゾジアゼピン長期服用者が、既に抗うつ薬も併用していることはよくあることです。このケースでは、ベンゾジアゼピン離脱を完了するまで、抗うつ薬服用を続けるべきです。
抗うつ薬のもうひとつの欠点は、突然断薬した場合、これもまた離脱反応を引き起こすということです。医師が必ずしもこの事実を認識しているとは限りません。抗うつ薬の離脱症状には、不安の増大、睡眠障害、インフルエンザ様症状、消化器系症状、易刺激性、涙脆くなるなどがあり、実はベンゾジアゼピンの離脱症状と大きな違いはありません。このような離脱反応は、1~3ヶ月かけて抗うつ薬をゆっくりと漸減することで防ぐことができます(表2参照)。ベンゾジアゼピンからの離脱に成功した人のほとんどは、抗うつ薬を止める段階が来た時には既に、減薬のエキスパートになっていることでしょう。ですから、自分に適した離脱速度を導き出すこともできるでしょう。
抑うつおよび不安への治療効果とは別に、いくつかの抗うつ薬には鎮静作用があり、特に不眠に悩む患者に有効な場合があります。低用量(10~50 mg)のアミトリプチリン(トリプタノール)やドキセピン(本邦未承認)は、就寝時に使用した場合、睡眠の促進に非常に有効です。数週間の短期服用にとどめ、段階的な減量あるいは服薬を一晩おきにすることで、断薬可能です。少量を短期間あるいは間欠的に摂取する場合、離脱が問題になることはありません。
表2. 抗うつ薬離脱症状
身体症状
消化器系症状: 腹痛、下痢、吐き気、嘔吐
インフルエンザ様症状: 疲労感、頭痛、筋肉痛、脱力、発汗、悪寒、動悸
睡眠障害: 不眠、鮮明な夢、悪夢
知覚障害: めまい感、頭のふらふら感、回転性めまい、チクチクする感覚、電気ショック様感覚
運動障害: 振戦(ふるえ)、平衡障害、筋硬直、異常運動
精神症状
不安、激しい興奮
発作的に泣く
易刺激性
過活動
攻撃性
離人症
記憶障害
錯乱
気分低下
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β遮断薬
ベンゾジアゼピン離脱中、激しい動悸、筋振戦(ふるえ)、ミオクローヌス(筋肉の突然の収縮による、身体の一部の瞬間的な不随意運動)などを呈し、離脱の進行を妨げるケースがあります。これらの症状はプロプラノロール(インデラル)などのβ遮断薬でコントロール、改善することが可能です。この系統の薬剤は交感神経系の過活動により過剰放出されたエピネフリンおよびノルエピネフリン(アドレナリンおよびノルアドレナリン)の作用を抑制します。この薬剤で心拍数は低下し、筋肉の過活動を防ぎます。精神症状にはほとんど影響を及ぼしませんが、動悸や振戦(ふるえ)が不安を生み、それが更なる動悸を生むという悪循環を絶つことが可能です。ベンゾジアゼピン離脱中の人の中には、このような薬剤を少量常用する人もいますし(インデラル10~20 mgを1日3回)、パニック発作の身体症状のコントロールが難しい場合のみの摂取にとどめる人もいます。これらは病気そのものを治すことにはなりませんが、困難な状況にある人に時に有効な場合もあります。高血圧や狭心症には、より高用量のβ遮断薬が使用されますが、ベンゾジアゼピン離脱中にそのような高用量は推奨されません。喘息がある人には、気管支の収縮を引き起こすため用いられるべきではありません。β遮断薬をある程度の期間常用した場合、これもまた、心拍数の増加、心悸亢進といった離脱反応を引き起こすことがあるため、用量を漸減しながらゆっくりと離脱しなければいけません。
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睡眠薬および鎮静薬
他の睡眠薬、鎮静薬のほとんどは、ベンゾジアゼピンと類似の作用をします。それらには例えば、バルビツール酸系薬剤、抱水クローラル(エスクレ)、エトクロルビノール(Placidyl)、ゾピクロン(アモバン)、ゾルピデム(マイスリー)、ザレプロン(Sonata)があります。ちなみにアルコールも類似の作用をします。このような薬剤はどれも、ベンゾジアゼピン離脱中に代替睡眠薬として使用されるべきではありません。全て類似の依存を引き起こしますし、いくつかはベンゾジアゼピンよりも強い毒性を持っています。
〔訳注:エトクロルビノール、ザレプロンは日本では未承認〕
もし睡眠が大きな問題なら、鎮静作用のある三環系抗うつ薬(上述の抗うつ薬参照)の少量摂取が選択肢として考えられるでしょう。あるいは、鎮静作用のある抗ヒスタミン薬(例えば、ジフェンヒドラミン[レスタミン]、プロメタジン [ピレチア、ヒベルナ])を一時的に用いることも可能かもしれません。抗うつ薬も抗ヒスタミン薬も、ベンゾジアゼピンとは異なるメカニズムで作用します。
メジャートランキライザーに属する薬剤のいくつかには鎮静作用があり、吐き気、めまい、乗り物酔いにも使用されます。これらが、時には離脱中に処方されることもあります。特にプロクロルペラジン(ノバミン)です。しかしながら、このような薬剤は深刻な副作用(パーキンソン病のような運動障害)があり、長期使用あるいはベンゾジアゼピンとの置換には推奨されません。
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その他の薬剤
ベンゾジアゼピン離脱の臨床試験で、複数の薬剤について、離脱プロセスを速めたり、離脱症状を予防あるいは緩和したり、長期的な成功率を改善させたりするのかどうかについて検討されました。これらの試験の多くでは、このマニュアルでいう速過ぎる離脱が行われました。例えば、米国で行なわれたベンゾジアゼピン長期服用者の離脱についての最近の研究(Rickels, Schweizer et al. Psychopharmacology 141,1-5,1999)では、鎮静系抗うつ薬(トラゾドン塩酸塩[レスリン、デジレル])および抗痙攣薬(バルプロ酸ナトリウム[デパケン、セレニカ])の効果が試されました。どちらも、離脱症状の激しさに何の影響も及ぼしませんでした。しかし、減薬の速度は、ベンゾジアゼピンの用量を毎週25%ずつ減量していく速さでした。これはかなり急速な離脱です!4~6週間の離脱の試験において、ほとんどあるいは全く効果が見られなかった他の薬剤として、ブスピロン(BuSpar、抗不安薬)、カルバマゼピン(テグレトール、抗痙攣薬)、クロニジン(カタプレス、時にアルコール解毒に用いられる抗不安薬)、ニフェジピン(アダラート)、アルピデムがあります。
〔訳註:ブスピロンは日本では未承認。アルピデムは日本では販売終了。クロニジンは日本では降圧剤として用いられている。〕
ガバペンチン(ガバペン)、チアガビン(Gabitril)、場合によるとプレガバリン(英国未承認)が離脱における睡眠および不安に有効だという報告がいくつかあります。しかしながら、比較対照試験は行われていません。また、これらの薬剤自体が離脱作用を引き起こすかどうかも明らかではありません。実際には、ベンゾジアゼピンを非常にゆっくりと漸減することにより、追加的薬剤を必要とすることはほとんどありません。特別な状況にのみ、抗うつ薬、β遮断薬、鎮静系抗ヒスタミン薬、抗痙攣薬が用いられる余地がある可能性が考えられます。日常の様々な痛みには、タイレノール、フェルデンなど、通常の鎮痛剤の使用を避ける必要はありません。
〔訳註:チアガビンは日本では未承認。プレガバリンは日本では商品名リリカとして承認販売されている。〕
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離脱中および離脱後のベンゾジアゼピン使用
もし、ベンゾジアゼピン離脱中の人、あるいは離脱を成功した人に、外科手術が必要となった場合に何が起こるでしょうか?ベンゾジアゼピンは、大きな手術の術前投薬として、また、小さな外科手術中の鎮静および健忘効果に有効です。しかしながら、多くの前使用者が怖がることは、もしこのような目的でベンゾジアゼピンを投与された場合、再び依存状態に戻ってしまうのかということです。しかし、心配する必要はありません。手術のストレスが、ベンゾジアゼピン離脱中に経験した不安症状を、再び呼び起こす可能性はあっても、手術のために投与された単回のベンゾジアゼピンが中毒状態に引き戻すことはありません。このような状況で報告される症状は、通常、恐怖心からもたらされるものでした。個人的に観察した多くの患者が、歯科治療(歯科恐怖は離脱においてよくみられます)に短時間作用型ベンゾジアゼピン、ミダゾラム(ドルミカム)を、また大小の手術には、ジアゼパムを含む他のベンゾジアゼピンを繰り返し使用していました。そして、彼らは何事もなく回復しています。
また、離脱を試みて一度失敗し、ベンゾジアゼピンを再服薬している人も、初めて試みる人と全く同じように、漸減に成功することが可能です。
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食事、飲み物、運動
特に北米において、ベンゾジアゼピン離脱中の食事の問題について関心が高まっています。どのような食べ物や飲み物を避けるべきなのか?どのようなサプリメントを補うべきか?こういった質問がよくあります。私見では、食事に過度にこだわる必要はありません。中には、カフェインとアルコールは完全に避けなければいけないとアドバイスする人もいます。しかしながら、自宅で緩除な漸減を行なう目的は、薬のない普通のライフスタイルに慣れることです。私の経験上、適度にコーヒーや紅茶(1日2杯程度)を飲んだり、適量のココア、チョコレート、コカコーラを摂取したりすることは、ベンゾジアゼピン離脱と問題なく両立できます。例外は、カフェインに非常に敏感な一部の人や、非常に高い不安レベルにある人たちです。不眠を呈している場合、夜遅くカフェインを摂取したり、(カフェイン抜きでない限り)真夜中に紅茶やコーヒーを飲んだりすべきでないことは明らかです。しかし一般に、朝食時の一杯の紅茶やコーヒーを禁止することは、過度に制限しすぎです。とにかく神経質にならずに、自然で社交的であるように努めることです。
アルコールについても同様です。グラス1、2杯程度のワインは全く差し支えありません(健康のためには飲んだ方が良いとも言う人もいます)。ベンゾジアゼピンの減量の代わりに、アルコールを増量しないことは重要ですが、ささやかな楽しみを禁止する必要はありません。適度ということが重要で、禁欲的になる必要はありません。
同じことが食事にも当てはまります。人間は進化を通して、多彩な食物から必要な栄養素を吸収し、不必要な生成物は排泄するように、極めて上手く適応しています。離脱にあたっても、果物や野菜をたっぷり食べ、(肉や野菜から)たんぱく源や脂肪分を摂取し、精白糖や“ジャンクフード”を摂り過ぎないようにして、バランスのとれた普通の健康的な食事をすることにより、必要とする全ての栄養素を摂取することが出来ます。一般に、栄養補助食品(サプリメント)や余分なビタミンおよびミネラルの摂取、あるいは“解毒”療法などの必要はありません。これらは全て、行き過ぎると有害になり得ます。精白粉や精白糖などを取り除くよう勧めて有効な人もいるかもしれませんが、過度な食事制限には悪影響があることも私は見てきました。時には、特別な食事療法を始めてから、体調がずっと良くなったと言う人の話も聞きますが、そんな話を聞くと、むしろそれ以前はどんな食物を摂っていたのだろうかが気になります。
通常、真性アレルギーではありませんが、特定の食べ物に不耐性を示す人もいるかもしれません。この場合は、常識にならって、そのような食べ物をしばらく避けることです。疑わしい場合は、信用できる、中庸な意見をもった栄養士にアドバイスを求めてください。とにかく一般的には、流行の食事療法ではなく、普通の健康的な食事を摂るよう心がけてください。食事療法が“流行”となる以前には、幅広く多様な食習慣がある多くの国々で、大勢の人たちが食事制限などしなくてもベンゾジアゼピンからの離脱に成功していましたし、このような考えは今日でも通用します。
適量の水分摂取も、自然な食事の一部です。必要な水分量、塩分量は、体格、環境温度、運動量などによって異なりますから、断定的に明示することはできません。しかしながら、離脱中に、“不純物や毒素を流し出そう”と考えて、余計に水分を摂取する必要はありません。私たちの身体は、例え最少の水分摂取であってもこれを非常にうまくこなしているので、過剰な水分は単に排泄されるだけです。
離脱中は、規則的で適度な運動をすることが推奨されます。そうすることで、健康を保ち、スタミナをつけ、脳、筋肉、肌への血液循環を増加させ、気分を改善させます。しかし、嫌いなエクササイズを嫌々やっても意味がありません。目的は、健康的なライフスタイルを送るということで、当然ながら、あなたが楽しめる形での運動となります。
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喫 煙
この不運な嗜癖(ニコチン依存)に対する今日的な見方を考慮して、私は喫煙について敢えてほとんど言及しないことにします。しかし、喫煙者にとって、禁煙とベンゾジアゼピン離脱を同時に試みることは、おそらく多くを求めすぎることになるでしょう。多くの人が、ベンゾジアゼピンを止めた後の方が、禁煙は簡単であることに気付きました。ニコチンへの欲求が幾分弱まることがあるのかも知れません。一般に、望ましくない習慣(あるいは食事)について過度に心配することは、離脱のストレスを増加させます。少しはリラックスして、自分自身に優しくしてあげてください。
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離脱の経過
ベンゾジアゼピン離脱中、症状は、日ごと、週ごと、あるいは一日の中においてすら、症状の強さや種類を変えながら、特徴的に一進一退します。現れては消える症状もあれば、別の症状に取って代ることもあります。こういった波のような再発に落胆する必要はありません。この波は、時間が経つにつれて、激しさが弱まり、頻度も少なくなっていきます。一般的には、断薬してから数週間後には、確実に調子が良いと感じる“正常な”時間帯が、数時間あるいは数日間現れ、次第にその“正常な”時間はより頻繁に訪れるようになり、そしてより長く持続するようになります。一方、間に起こる不快な症状は減退していきます。
離脱症状の期間を正確に限定することは不可能です。どこからスタートするのか、どれだけのサポートを必要として、どれだけを得ることが出来るのか、どのように漸減をやりくりするのか、その他多くのファクターに左右されます。ゆっくりとした漸減により、最後の錠剤を飲む頃までに、ほとんど全ての症状が無くなる長期服用者もいます。また、大部分の人において、症状は数ヶ月以内に消失します。余計なストレスに対する脆弱性が幾分長く続き、激しいストレスによって“一時的に”、いくつかの症状が呼び戻されることがあるかもしれません。症状が何であれ、それらについて深く考えすぎないことが最良です。結局、症状は単に症状であり、離脱における症状のほとんどは、病気のサインではなく回復のシグナルです。更に、心が晴れていくにつれ、症状に対してどんどん効果的な対処法を思いつくようになり、症状も深刻なものではなくなっていきます。
多くの臨床研究から判明した心強い結果がひとつあります。それは、離脱における最終的な成功とは、ベンゾジアゼピンの服用期間、用量、種類、離脱速度、症状の激しさ、精神医学的診断、過去の離脱の試みなどには影響されないということです。このように、どこからスタートしても、意欲があれば、長期服用者でも前向きに進んでいくことができるのです。
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