序 文
アシュトン教授からの大切なメッセージ 2007年1月
アシュトン教授は、マニュアル内で言及されているものの、必ずしも医師や患者に守られていない以下のポイントについて注意喚起を行っています。
- このマニュアル内で示された離脱スケジュールは単に“一般的な指針”を示すために作成されたものであることを、あなたの処方医に伝えることが大切です。減薬速度は決して厳格になってはいけません。柔軟であってください。そして、患者個人の必要性にしたがって、医師ではなく患者自身が減薬速度をコントロールしてください。それぞれの必要性はあらゆるケースで異なってきます。離脱を決断するのも患者自身であり、医師に強制されてはいけません。
- お酒(アルコール)はベンゾジアゼピンと同じように作用するため、仮にも飲酒するような場合は、このマニュアルで推奨されたように厳しく節度をもって飲まなければいけないことに注意してください。
- 何らかの理由で抗生物質は、時に離脱症状を悪化させることがあるようです。しかしながら、抗菌剤の一種であるキノロン剤は、実際にベンゾジアゼピンをGABA受容体の結合部位から外します。これらはベンゾジアゼピンを使用中あるいは減薬中の人に、激しい離脱を引き起こす可能性があります。ベンゾジアゼピン離脱中に抗生物質を摂取する必要があるかもしれませんが、可能ならキノロン剤は避けるべきです(少なくとも6種の異なるキノロン剤があります。疑問がある時は主治医に問い合わせてください)。
C. H. アシュトン 2007年1月
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改訂版の前書き 2002年8月8月
今回の改訂版には、ヨーロッパ、北米、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、インドなど多くの国の読者からの要望や疑問への回答として、新たな情報をいくつか加えました。追加した内容としては、抗うつ薬の離脱に関するより詳しい情報、高齢者へのアドバイス、そして、ベンゾジアゼピン離脱に有用な補完代替療法、非薬物療法についての記述などがあります。またエピローグでは、ベンゾジアゼピンにまつわる更なる活動、たとえば、教育、研究、長期服用者のための施設の供給が急務であることを概説しました。本書が世界中の人々の助けになってきたことを嬉しく思い、沢山の謝意をいただいたことに感謝しています。また、これにより、医療従事者などが、ベンゾジアゼピン離脱の治療的管理を更に改良することを目的とした、正確な比較対照試験に取りかかるよう促進されることを希望しています。本書は、この問題に関する最終決定版では決してありせん。
ヘザー・アシュトン
ニューカッスル・アポン・タイン
2002年8月
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前書き 2001年
これらの章は、ベンゾジアゼピン長期使用にまつわる問題を懸念する米国読者の要望にこたえて、1999年に執筆したものです。その後の、カナダ、オーストラリア、英国からの問い合わせは、このマニュアル内のアドバイスがより多くの読者の助けになる可能性を示唆しました。そこで今回、いくつかの追加を行い、特に英国の読者向けの記述を加えました。
1985年に英国では、国民医療保健サービス(National Health Service [NHS])の下で処方可能なベンゾジアゼピンの制限リストが導入されました。このリストには、抗不安薬としてジアゼパム、クロルジアゼポキシド、ロラゼパム、オキサゼパム、そして睡眠薬としてニトラゼパム、テマゼパムが含まれています。トリアゾラムは、元々はリストに載っていましたが、後に削除されました。現在、英国の国民医療保健サービス(NHS)の下で入手可能な他の睡眠剤としては、ベンゾジアゼピン系のロラゼパムとロルメタゼパム、およびベンゾジアゼピン系ではありませんが、ベンゾジアゼピンと同様に作用し、依存や離脱反応など同じ有害作用をもつゾピクロンとゾルピデムがあります。今回、最初の米国版には記載されていなかったベンゾジアゼピンについての情報を書き加え、また、クロルジアゼポキシド、オキサゼパム、ゾピクロンの離脱スケジュール案も追加しました。
残念ながら、ベンゾジアゼピン物語は完結には程遠いのです。ベンゾジアゼピンの使用が勧められるのは短期使用に限られているという事実にも拘わらず、英国には約50万人ものベンゾジアゼピン長期使用者が未だに存在し、数年間もベンゾジアゼピンが処方されているケースがしばしばあります。このような人の多くが依存や離脱反応といった有害作用の問題を抱えていますが、それに対するアドバイスや支援もほとんど提供されていません。処方箋なしにベンゾジアゼピンを入手できる国(ギリシャ、インド、南米など)では問題はかなり深刻です。処方が広範囲に普及し、またその入手が容易なために、更にベンゾジアゼピンは今や、“ドラッグ(麻薬)の領域”に入りました。世界中の多剤乱用者のうち90%がベンゾジアゼピンを高用量で違法に使用し、新たな危険(エイズ、肺炎、次世代へのリスク)を引き起こしています。このことは、無害な万能薬として医療現場に導入されたおよそ50年前には想像もされなかったことです。
私はこの小冊子が、どこからもアドバイスを得ることの出来ないベンゾジアゼピン服用者にとって価値ある情報となることを希望し、また願わくは、医療従事者においても、ベンゾジアゼピンの過量処方、長期処方の危険性に対する認識が高まることを期待しています。本書が役に立つとすれば、最も功績が称えられるべきは、米国のGeraldine Burns、カナダのRand M Bard、英国のRay Nimmo と Carol Packerであります。この小冊子を出版、配布し、そしてインターネットを通して世界中の人々が利用できるようにした彼らの行動力、熱意、専門知識は称賛に値します。
ヘザー・アシュトン
2001年1月
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ヘザー・アシュトン教授(医学博士、英国内科医師会フェロー)について
クリスタル・ヘザー・アシュトン(Chrystal Heather Ashton 医学博士、英国内科医師会フェロー)は英国、ニューカッスル・アポン・タイン大学名誉教授(臨床精神薬理学)。
アシュトン教授は、オックスフォード大学を卒業し、1951年に生理学において第一級優等学位(BA)を取得。1954年、医学士(BM、BCh、MA)取得。1956年、大学院にて医学博士号(DM)取得。1958年、ロンドンで英国内科医師会会員(MRCP)の資格取得。1975年、ロンドンで英国内科医師会フェロー(FRCP)に選出。同年にはまた、英国国民医療保健サービス(NHS)の臨床精神薬理学顧問に就任。1994年には、同NHSの精神医学顧問にも就任した。
1965年以来、ニューカッスル・アポン・タイン大学にて、最初は薬学部、そして後に精神医学部門で、研究者(講師、上級講師、准教授、教授)および臨床医として勤務してきた。専門研究分野は向精神薬(ニコチン、大麻、ベンゾジアゼピン、抗うつ薬やその他)の人間の脳や行動に及ぼす影響であり、現在もその研究を続けている。主な臨床業績は、1982~1994の12年間、ベンゾジアゼピン離脱クリニックの運営にあたったことである。
現在、ノースイースト薬物依存評議会(North East Council on Addictions [NECA])とその実行委員会に携わっており、以前は副委員長を務めた。現在もカウンセラーにベンゾジアゼピン問題についての助言を続けており、ブリストル地区トランキライザープロジェクトの支援者でもある。1980年代には、英国のベンゾジアゼピン訴訟において包括専門家として関わり、英国の被害者組織、トランキライザー被害者の会(Victims of Tranquillisers [VOT])にも関わってきた。また、英国下院保健医療特別調査委員会(House of Commons Health Select Committee)にベンゾジアゼピンに関するエビデンスを提出している。
アシュトン教授は、専門誌や書籍(分担執筆も含む)に、約250の向精神薬に関する論文を発表し、そのうち50以上がベンゾジアゼピンに関するものである。様々な政府系委員会に、喫煙、大麻、ベンゾジアゼピンに関するエビデンスを提出している。また、英国、オーストラリア、スウェーデン、スイス、その他各国でベンゾジアゼピンについて招待講演を行なっている。
アシュトン教授の連絡先:
Department of Psychiatry
Royal Victoria Infirmary
Newcastle upon Tyne
NE1 4LP
England UK
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内容の概要
本書にはまず、ベンゾジアゼピンが脳や身体に与える影響について、またこれらの作用が発現する仕組みについての情報が示されています。次に、長期服用後の離脱方法および、様々なベンゾジアゼピンそれぞれの減薬スケジュールについて、詳しく提示されています。そしてその後に、急性および遷延性の離脱症状について、またその発症の原因と対処法について解説されています。全体を通してお伝えしたいことは、離脱を望むベンゾジアゼピン長期使用者のほとんどが離脱に成功し、結果としてより幸福にそしてより健康になれるということです。
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