中毒治療科 医学報告書(4)
注 記
- この報告書をインターネット上に公開することと、サイトの便宜上、書式を変更することについて(報告書の内容に変更はありません)、グレアム・ジャドスン医師から直接許可を貰っています。
- 裁判中は十分な時間がなかったため、誤訳や不自然な日本語表現がいくつかあります。しかし、信頼性を損なわせないために、修正は限定的な範囲に止めています(誤訳について参照)。不明なところがあれば、英語原文を参照して下さい。
- アシュトンマニュアルからの引用部分の翻訳は、後に公開された日本語版の翻訳と異なっています。
(翻訳文)
翻訳文作成日: 平成22年8月30日
翻訳文作成者: 翻訳会社
医学報告書(4)
ウェイン・ダグラス ― ベンゾジアゼピン依存の件
作成者: グレアム・ジャドスン医師、タラナキ地区保健局、精神保健・中毒治療科 医長
提出先: 東京高等裁判所
日 付: 2010年7月27日
署 名: グレアム・ジャドスン
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緒 言
当職は、我々の品質リスク管理科によりウェインの依頼に応じて2010年6月28日に同人に開示された、当院で保持されている彼の患者カルテ情報に関しての更なる報告書を執筆するように頼まれた。
主に日本での患者カルテ情報に関連してウェインのベンゾジアゼピン依存症に焦点を合わせた第三報告書に続き、本報告書では主にニュージーランドでの患者カルテ情報及び、いかにウェインの依存症診断が当初確定されたかということに焦点を合わせておく。
加えて、ウェインの症例における処方の問題、インフォームド・コンセント、及びモニタリングに関して、この機会に当職の意見を述べさせていただきたい。これは、この先数カ月にわたり当職が複数の病院での職務に多忙となること、及び、公判も同様にあらゆる時間的制約となることを理解しているためである。
本報告書は下記の主な4章から成る。
- 処方の確認(ジアゼパム換算量)
- 診断とDSM-IV-TR(初期評価)
- 鑑別診断(ニュージーランドのカルテ情報に基づく更なる情報)
- 処方、インフォームド・コンセント、モニタリング
訳者注:DSM-IV-TR とは(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision)、「精神疾患の診断統計マニュアル4版改訂版」の略である。
第一章では、ウェインが処方された正確な服用量とジアゼパム換算量を確認する。
第二章では、DSM-IV-TRの適用とウェインが呈した症状を含めた、当職の当初の依存症診断の根拠を確認する。
第三章では、ウェインのニュージーランドの医療記録に記載されている本人の既往歴に基づく鑑別診断に関する更なる情報を提供する。
第四章では、世界保健機構及びその他の一般的な処方ガイドラインに概略されている勧告に関連して、ウェインの症例における処方、インフォームド・コンセント、及びモニタリングを確認する。
再度、裁判所に提出された証拠項目の参照番号はウェインと同人の弁護士より当職に提供され、当職は直接それらを検証することはできなかったが、それらが裁判所記録と合致するものであると信頼している。
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(1) 処方の確認
1.1 ジアゼパム換算
1.2 異なるジアゼパム換算の理由
1.3 トフィソパム
1.4 ベンゾジアゼピンの中毒性
1.5 漸減の試行の内訳
1.6 標準的漸減療法歴の内訳
1.7 カルテ情報の内容の説明
1.8 薬物使用の既往歴
1.9 調査結果
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(2) 診断とDSM-IV-TR
2.1 診断手順
2.2 診断の元々の根拠(原因追究)
2.3 初期評価に基づくDSM-IV-TR
2.4 初診時の症状
2.5 回復(追加情報)
2.6 記録
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累積的要約/結論
下記は第三報告書、本第四報告書で述べた証拠に基づいた累積的要約である。
- 1999年に、ウェインは精神的な病気(いかなる不安症問題も含む)、または神経学的訴えに関する前病歴なく、健康な状態で日本に渡航した。
- STRC病院耳鼻咽喉科の患者カルテ情報12~13頁に記録されているように、1999年末、彼は、静岡でのストレスのかかる仕事をするうちにストレス症状をいくつか発現し、それには、疲労/だるさ、こめかみ付近の圧力、側頭静脈の膨張、息苦しさ、睡眠障害が含まれていた。
- その後ウェインは2000年3月末に転職し、STRC病院耳鼻咽喉科の患者カルテ情報13頁には、彼は新しい仕事を非常に気に入っていると報告した、と記録されている。
- 2000年5月11日、彼は午前2時に目まい発作のために突然目が覚め、その後継続する平衡障害、歩行不安定に至った。
- ウェインは最初にSTRC病院で診察を受け、MRI検査を含むあらゆる検査を受けたが、全ての結果は陰性であった。ウェインを最初に診察したK神経科医と、ウェインを後に診察したハッチンソン神経内科医は共に、“前庭障害”を疑った。
- ウェインは彼の目まい発作とそれに続く平衡障害の正確な診断がつかないことに不安を覚え始めた。
- 2000年6月、彼は平衡障害の専門家であるX医師への紹介を受ける決心をした。
- X医師は、ウェインが“中脳水道症候群”を患っているとの診断を下した。彼の診断には不安症は含まれていなかった。
- X医師はウェインに3種の異なるベンゾジアゼピン(抗不安薬)と1種の三環系抗鬱薬を含む多剤処方を始め、その処方量は6カ月に渡り全く変更されなかった。
- この長期に渡るベンゾジアゼピンの多剤処方によりウェインが依存症になる確率が50%~100%に増加したであろう。
- ハッチンソン神経内科医から提供された情報によると、ベンゾジアゼピンは“中脳水道症候群”或いは“前庭障害”のどちらの治療にも適したものではなく、また、それらは依存症を急速に形成し得る事実のために、ストレス症状の長期治療にも適していないとのことである。
- X医師は、ウェインに、なぜ薬剤(3種の異なるベンゾジアゼピンと1種の三環系抗鬱薬)が処方されたかという理由を伝えなかった。ウェインが理解した限りでは、これらの薬剤は“中脳水道症候群”の治療のために処方されたもので、それらがベンゾジアゼピンであったこと、或いは、ベンゾジアゼピンが何のためのものであったかは全くウェインにはわからなかった。
- ウェインは、治療開始後約1カ月半の時点で耐性の初期段階の兆候を発現し、それは、彼の症状のいくつかが当初落ち着き、その後動悸を含むその他の症状の発現と共にぶり返したことにより明らかであった。
- これは毎日の投与をさらに数カ月継続したことにより更に悪化し、その後ウェインは耐性と離脱に合致するいくつかの新たな症状を発現した(処方の約4~6カ月後)。
- 動悸を含むこれらの訴えに対し、ウェインは、入浴直後に冷たい水を飲まないように、入浴時に胸までつからぬように、もっと食事をするように、最近の悪天候のせいで気分が良くないのであろう、及び、もっと強くならねばならない、と言われたと報告した。
- 治療開始後約4~6カ月の時点でウェインの状態は悪化し、この頃から彼の友人たちが彼の健康状態についての懸念を口にし始めた。
- 彼の健康状態を心配し、ウェインは2000年11月末に薬剤を断とうとしたが失敗に終わったと報告している。
- この試みの直後、2000年12月13日に、ウェインは再度STRC病院のK医師を訪れ、別の病院への再紹介を求めた。
- そしてウェインは、X医師に彼の悪化している状態の懸念をより正確に伝えるために、2000年12月18日付の新たな症状のリストを作成し始めた。このリストにある多くの症状は耐性による離脱症状と合致していた。
- 続いて、ウェインは治療後約4~6カ月の時点でベンゾジアゼピン依存症を発現した可能性が大きいと推測することができる。これは統計によると典型的な依存症発現までの期間である(第一報告書13頁参照)。
- X医師と彼の治療への信頼を失くした後、ウェインは病院を変更する決心をした。最後の診察時に、彼は今後の参考のため彼が処方されていた薬剤についての情報を求めたが、拒否された。
- 病院を変えた直後、M医師と漸減療法についての話し合いがなされた。この計画を実行した結果、ウェインは二度目の減薬失敗を経験することとなった。
- この試みの後、ウェインは雇用契約の完了1週間前にニュージーランドに帰国することを決意、帰国後に再び薬物服用中止を試みたが失敗に終わった。
- ウィットウェル医師は、ウェインが離脱の問題を抱えているため仕事に就ける体調ではないと宣言し、専門的な助けを得るよう彼を当科へ紹介した。
- 標準的漸減療法中に、彼の症状は他の離脱症状の発現を伴って再度増大した。
- ウェインは、漸減療法計画の最初の離脱段階の終了後約3カ月の時点で、殆どの症状から着実に回復した(中止後6カ月)。他の症状は時間をかけて徐々に改善し回復に1年かかった。これにより遷延性離脱症状が示唆される。
- 漸減療法終了後、ウェインは娯楽活動に徐々に復帰することができ、体重、体力と気力が大幅に増加し、それは後にアドベンチャーガイドや屋外労働者として復職した彼の能力により明らかとなった。
- 彼はその後日本での生活と仕事に復帰することができ、現在継続中の賠償訴訟による更なるストレスの下にいるにも関わらず、以前よりずっと良い健康状態を維持し続けている。
- 記録を再検討したところ、当職は、賠償訴訟の手続き開始前に当職らが保持していたカルテ情報に基づいて、DSM-IV-TRの7つの基準のうちの5つがウェインの最初の依存症診断に適用できると確認できる。
- 更に、ウェインの法的賠償訴訟の結果、後に浮上した日本の患者カルテ情報を含む更なる情報は、ウェインがこれらの5つの基準を充足した事実を損ねることはない。
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原本
報告書(4)の原本を見るにはここをクリックしてください。
誤訳について
- 「誤訳について」で、医学報告書にある誤訳(翻訳会社のミス)を訂正しています。
- それらの誤訳について解説を加えているので、誤訳が裁判に影響を与えた可能性があったかどうかご判断いただけるかもしれません。また、ここは外国語や翻訳に興味のある人にとって面白いかもしれません。
このサイトの主要言語は英語です。
その翻訳は私自身を含む複数の人によって手がけられました。
私の母国語は日本語ではありませんので何卒ご理解いただきたくお
「もし何かの薬を飲み続け、それが長い長い災難をもたらし、あなたからアイデンティティをまさに奪い去ろうとしているのなら、その薬はベンゾジアゼピンに違いない。」
ジョン・マースデン医師
ロンドン大学精神医学研究所
2007年11月1日
「我々の社会において、ベンゾは他の何よりも、苦痛を増し、より不幸にし、より多くの損害をもたらす。」
フィリップ・ウーラス下院議員
英国下院副議長
オールダムクロニクルOldham Chronicle (2004年2月12日)
「ベンゾジアゼピン系薬剤はおそらく、これまでで最も中毒性の高い薬物であろう。これらの薬を大量に処方してきた途方もなく大勢の熱狂的な医師達が、世界最大の薬物中毒問題を引き起こしてきたのだ。」
薬という神話 (1992)
「薬があれば、製薬会社はそれを使える病気を見つける。」
ジェレミー・ローランス (ジャーナリスト)
インディペンデント紙 (2002年4月17日)
「製薬会社に対して、彼らの製造する薬について公正な評価を期待することは、ビール会社にアルコール依存に関する教えを期待するのと同じようなものである。」
マーシャ・エンジェル医師
医学専門誌"New England Journal of Medicine"元編集長
「ベンゾジアゼピンから離脱させることは、ヘロインから離脱させるよりも困難である。」
マルコム・レイダー教授
ロンドン大学精神医学研究所
BBC Radio 4, Face The Facts
1999年3月16日
「長期服用者のうち15%の人たちに、離脱症状が数ヶ月あるいは数年持続することがある。中には、慢性使用の結果、長期に及ぶ障害が引き起こされる場合もあり、これは永続的な障害である可能性がある。」
ヘザー・アシュトン教授
医学博士、名誉教授
Good Housekeeping (2003年)
「クロノピン(クロナゼパム)とは恐ろしい、危険なドラッグだ。」
この気の毒な問題に取り組む全ての関係者は、トランキライザー被害者の為に正義を提供するよう努めるべきである。
「ベンゾジアゼピンを飲むと災難がやって来る。」
アンドルー・バーン医師
オーストラリア, NSW, レッドファーン
ベンゾジアゼピン依存 (1997)
Both the High Court and Supreme Court Verdicts dismissed my case completely (100%), despite the comprehensive medical reports, expert opinions, and credible evidence...
Who's protecting society (the tax payers) whose money they receive as salary to protect the public?