中毒治療科 医学報告書(3)
注 記
- この報告書をインターネット上に公開することと、サイトの便宜上、書式を変更することについて(報告書の内容に変更はありません)、グレアム・ジャドスン医師から直接許可を貰っています。
- 裁判中は十分な時間がなかったため、誤訳や不自然な日本語表現がいくつかあります。しかし、信頼性を損なわせないために、修正は限定的な範囲に止めています(誤訳について参照)。不明なところがあれば、英語原文を参照して下さい。
- アシュトンマニュアルからの引用部分の翻訳は、後に公開された日本語版の翻訳と異なっています。
(翻訳文)
翻訳文作成日: 平成22年5月15日
翻訳文作成者: 翻訳会社
医学報告書(3)
ウェイン・ダグラス ― ベンゾジアゼピン依存の件
作成者: グレアム・ジャドスン医師、タラナキ地区保健局、精神保健・中毒治療科 医長
提出先: 東京高等裁判所
日 付: 2010年4月7日
署 名: グレアム・ジャドスン
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緒 言
当職の理解によると、下記の事項についていくらかの相違がある。
- 証拠に関するDSM-IV-TRの適用
- 処方量の不足
- 不安障害の可能性
- 証拠(患者カルテ情報)に関する過去の報告書の一貫性
訳注:DSM-IV-TR とは(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision)、「精神疾患の診断統計マニュアル4版改訂版」の略である。
続いて、本報告書はこれら各項目についての説明をするものである。
ウェインにより提出された同人の患者カルテ情報の写しを検証した後にも、これらのカルテ情報の内容は依存症診断の支持に関して何の変更をも与えないものと確信できる。
その理由を概説する前に、当職のウェインの件に関わる目的は、単に彼が依存症であったかどうかを判断するだけのものであるということを、全ての関係者の前にここで明確にしておきたい。当職の目的には、彼の元々の訴えが中脳水道症候群(X医師により指摘された)であるか、あるいは、“急性前提障害”(K、ハッチンソン各神経科医により疑われた)であるかという診断は含まれず、また、そのどちらも依存症診断においては何の関連もないものである。加えて、ウェインが不安障害(自律神経失調症)を患っていたかどうかについての議論は依存症を除外する根拠にはならないということを明確にしておきたい。
本報告書は下記の3章から成る。
- 基礎的情報
- DSM-IV-TRと患者カルテ情報
- 一般情報
第一章はベンゾジアゼピンの特性と、どのように依存が生じ診断されるに至るかに関するより詳細な識見を提供するための基礎的情報に基づいている。
第二章は基本的にDSM-IV-TRの基準に関連する証拠に基づいている。
第三章も証拠に基づくが、処方量の不足、鑑別診断など、またその他の概説についての議論に関連する論拠が含まれている。
裁判所に提出された証拠項目の参照番号はウェインと同人の弁護士より当職に提供され、当職は直接それらを検証することはできなかったが、それらが裁判所記録と合致するものであると信頼している。
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(2)DSM-IV-TRと患者カルテ情報
2.1 耐性
2.2 離脱
2.3 制御不能
2.4 生活に対する打撃
2.5 有害であることを知っているにも関わらず、使用を継続したこと
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累積的結論
- ウェインは治療開始後約1カ月半の時点で、耐性の初期症状を発現した。
- これは毎日の投与をさらに数カ月継続したことにより更に悪化し、その後ウェインは耐性と離脱症状に合致するいくつかの新たな症状を発現した(処方の約4~6カ月後)。
- この頃からウェインの友人たちが彼の健康状態についての懸念を口にし始めた。
- 自己の状態の悪化を自覚し、ウェインは2000年11月末に薬物服用の中止を試みたが失敗に終わったと報告している。
- この試みの直後、2000年12月13日に、ウェインは再度STRC病院のK医師を訪れ、別の病院への再紹介を求めたことにより、薬物が彼に有害である可能性があるとの認識を示した。
- そしてウェインは、X医師に彼の悪化している状態の懸念をより正確に伝えるために、2000年12月18日付の新たな症状のリストを作成し始めた。このリストにある多くの症状は耐性による離脱症状と合致していた
- 続いて、ウェインは、治療開始後約4~6カ月の時点で、ベンゾジアゼピン依存症を発現した可能性が大きいと推測することができる。これは統計によると典型的な依存症発現までの期間である(第一報告書の13頁参照)。
- 病院を変えた直後、M医師と漸減療法についての話し合いがなされた。この計画を実行した結果、ウェインは二度目の減薬失敗を経験することとなった。
- この試みの後に、ウェインはニュージーランドに帰国することを決意、帰国後に再び薬物服用中止を試みたが失敗に終わり、その後、当科に専門家の助けを求めて来院した。
- 正式な漸減療法中に、彼の症状は他の離脱症状の発現を伴って再度増大した。
- ウェインは漸減療法計画の最初の離脱段階を終了した時から約3カ月以内に、殆どの症状から回復した。他の症状は時間をかけて徐々に改善し回復に1年かかった。これにより遷延性離脱症状が示唆される。
- 漸減療法終了後、ウェインは娯楽活動に徐々に復帰することができ、体重、体力と気力が大幅に増加し、それは後にアドベンチャーガイドや屋外労働者として復職した彼の能力により明らかとなった。
- 彼はその後日本での生活と仕事に復帰することができ、現在継続中の賠償訴訟による更なるストレスの下にいるにも関わらず、以前よりずっと良い健康状態を維持し続けている。
- 当職は、“依存症”が実際にはどういうものであるかということに関しての質問があるとの報告を受けている。依存症は単に、人が薬物を中止することに困難を覚える状態だけを指すものではない。それは深刻な疾患であり、患者の精神、及び肉体に大きな苦痛をもたらすものであり、アシュトン教授により下記にて強調されているように、仕事、家庭や社会生活、また全体的な健康を含む生活全般に深刻な被害をもたらす可能性がある。
“ベンゾジアゼピン離脱症状は深刻な疾患である。患者はたいてい恐怖を感じ、多くは激痛を覚え、非常に打ちひしがれる。疾患の深刻さと持続期間は医療従事者及び看護職員により”神経症“の症状として見落とされる傾向があり軽視され易い”。実際、患者自身の責任ではないのだが、患者は多大な肉体的苦痛と精神的苦痛を覚える。“(Benzodiazepine Withdrawalベンゾジアゼピン離脱症状:An Unfinished Story. 終わらない物語 C.H.アシュトン教授 1984 オンラインバージョン12/13頁参照)。
- 当職の以前の報告書の内容に基づき、及び患者カルテ情報(証拠)を直接検証することができたところ、ウェインがDSM-IV-TRの5つの基準を充足するということを再確認することができる。
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原本
報告書(3)の原本を見るにはここをクリックしてください。
誤訳について
- 「誤訳について」で、医学報告書にある誤訳(翻訳会社のミス)を訂正しています。
- それらの誤訳について解説を加えているので、誤訳が裁判に影響を与えた可能性があったかどうかご判断いただけるかもしれません。また、ここは外国語や翻訳に興味のある人にとって面白いかもしれません。
このサイトの主要言語は英語です。
その翻訳は私自身を含む複数の人によって手がけられました。
私の母国語は日本語ではありませんので何卒ご理解いただきたくお
「製薬会社に対して、彼らの製造する薬について公正な評価を期待することは、ビール会社にアルコール依存に関する教えを期待するのと同じようなものである。」
マーシャ・エンジェル医師
医学専門誌"New England Journal of Medicine"元編集長
「ベンゾジアゼピンから離脱させることは、ヘロインから離脱させるよりも困難である。」
マルコム・レイダー教授
ロンドン大学精神医学研究所
BBC Radio 4, Face The Facts
1999年3月16日
「もし何かの薬を飲み続け、それが長い長い災難をもたらし、あなたからアイデンティティをまさに奪い去ろうとしているのなら、その薬はベンゾジアゼピンに違いない。」
ジョン・マースデン医師
ロンドン大学精神医学研究所
2007年11月1日
「我々の社会において、ベンゾは他の何よりも、苦痛を増し、より不幸にし、より多くの損害をもたらす。」
フィリップ・ウーラス下院議員
英国下院副議長
オールダムクロニクルOldham Chronicle (2004年2月12日)
この気の毒な問題に取り組む全ての関係者は、トランキライザー被害者の為に正義を提供するよう努めるべきである。
「ベンゾジアゼピン系薬剤はおそらく、これまでで最も中毒性の高い薬物であろう。これらの薬を大量に処方してきた途方もなく大勢の熱狂的な医師達が、世界最大の薬物中毒問題を引き起こしてきたのだ。」
薬という神話 (1992)
「薬があれば、製薬会社はそれを使える病気を見つける。」
ジェレミー・ローランス (ジャーナリスト)
インディペンデント紙 (2002年4月17日)
「長期服用者のうち15%の人たちに、離脱症状が数ヶ月あるいは数年持続することがある。中には、慢性使用の結果、長期に及ぶ障害が引き起こされる場合もあり、これは永続的な障害である可能性がある。」
ヘザー・アシュトン教授
医学博士、名誉教授
Good Housekeeping (2003年)