第一章
1.基礎的情報
1.1 ベンゾジアゼピンの特性
1.1.1
ベンゾジアゼピンは多くの急性不安疾患の治療、特に患者が突然の、あるいは深刻な心的または身体的外傷を経験した場合に非常に有効である。しかし、ベンゾジアゼピンは効果がすぐに失われるため、約2~4週間以上は処方されないように薦められている。
1.1.2
また、これらの薬剤は他の薬剤との相性が悪く、互いに複数の組み合わせで使用されるべきではない。更に、一度に一種類以上処方しないことが薦められており、さもなければ副作用や依存形成の可能性が増大する。
1.1.3
ベンゾジアゼピンは短期治療に非常に有効であるため、治療開始の直後に患者の症状が当初では落ち着くことが多い。しかし、治療が長引くと、患者の体に神経学的な順応、すなわち耐性が発現することが多い。そうなると薬剤は治療効果を失い患者に当初は抑制されていたいくつかの症状がぶり返すこともある。
1.1.4
症状はたいてい投薬量を増やすことにより抑えることができるが、これは通常、耐性状態を増大させ、離脱症状の可能性を増大させるために避ける方が良い。
1.1.5
治療が長期にわたる場合(2、3カ月以上)、患者に更なる薬物耐性が発現し、依存が生じうる。その結果、治療中に、または患者が漸減療法を開始した時に、離脱症状が起こる。中には1年以上持続する可能性のある、遷延性離脱症状を生じる患者もいる。
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1.2 ベンゾジアゼピン依存症の診断
1.2.1
ベンゾジアゼピン依存症を診断する場合、アメリカ精神医学会によって使用される基準であるDSM-IV-TR (精神疾患の分類と診断の手引き、第4版新訂版)を用いるのが一般的である。DSM-IV-TRで指摘されているように、薬物依存症とは、臨床的に重大な障害や苦痛を惹き起こす薬物使用の不適応的な様式で,7つの基準の内3つまたはそれ以上の基準が、同じ12カ月の期間内のどこかで起こることによって示される。
1.2.2
これらの基準を適用する際に気を留めるべきことは、これは各基準を一つずつ検討するような単純なケースではないということだ。むしろ全体的臨床像の中で、それぞれの基準の関係を考慮しながら検討されるべきである。
1.2.3
また、症状の分析をする際も、これは、当初の症状は不安症によるものであったはずだ、そして新しい症状は依存によるものであったはずだと言えるような単純なケースではないということだ。そのように単純で明白なものではない。離脱症状ではたいてい、元々の症状の性質、頻度、または強度が変化しており、すなわち症状の悪化がみられる。更にベンゾジアゼピン依存は、薬剤の投与による改善を意図した症候それ自体を、惹起すことがよくある。
1.2.4
続いて、依存診断は症状の分析のみによって診断されるものではないことを明確にしておかねばならないが、特定の症状のパターンが耐性や離脱のような特別な状態における有用な指標ともなる。むしろ、症状は全体的臨床像の中で考究されるべきである。
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1.3 処方期間/処方量と患者カルテ情報
1.3.1
X医師の患者カルテ情報の内容は明確に、同医師がウェインに5種の異なる薬剤を混ぜて処方したことを示しており、それらには処方量の変更が全くなく約7カ月間にわたり持続された3種の異なるベンゾジアゼピンと1種の三環系抗鬱薬が含まれている。その後、ウェインは2001年1月にOセンター(訳注:当時。現Sセンター)に他の治療法を求めて訪れ、そこでこの投薬は2種の異なるベンゾジアゼピンを含む新たな処方で延長された。
1.3.2
続いて、ウェインのカルテ情報の内容、彼の症状、全体的臨床像およびDSM-IV-TRの適用について吟味するまでもなく、我々は、単に彼の処方期間と処方量のみを考慮しただけで、少なくとも50~100%の確率で彼は依存状態にあったことを断定することが既に可能である。
原注:依存の可能性が広範囲となる理由は、個体性が考慮される必要があるためである。
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