第三章
3.標準的漸減療法
3.1 漸減療法の経過
3.1.1
2004年(平成16年)9月10日付当職作成に係る書簡(訳注:甲A8)で概説した通り,ウェインが当アルコール・薬物中毒治療科にて初診を受けたのは,2001年(平成13年)4月19日である。ウェインは,まず初めに,当科の薬物解毒療法担当看護師の予診を受け,次いで,その翌日,当職の診察を受けた。同人は,ベンゾジアゼピン依存症の疑いありとして,その診断と,漸減療法のために,当科に紹介されて来たのである。
原注: 診断に至る過程の一部として,ウェインは,同人についての報告書(訳注:甲A18の1,甲A18の3)を提出している上級臨床心理士アラン・ガイ医師によっても診断された。
3.1.2
漸減療法の間の服用量の内訳
期間 | 監視医師 | 薬物 |
用量 (mg) |
離脱(退薬)症候 |
2001年4月9日~4月中旬 | ウィットウェル医師 | クロナゼパム | 1.0 | |
4月中旬~4月30日 |
ウィットウェル医師 ジャドスン医師 |
クロナゼパム | 0.5 | |
4月30日~5月5日 | ジャドスン医師 | クロナゼパム | 0.25 |
以下の悪化: 1. めまい 2. 側頭動脈の拍動 |
5月5日~ | ジャドスン医師 | クロナゼパム | 0 |
1. 筋肉の硬化 2. 顔面のピリピリ感 3. 情緒不安定の増大 4. 視覚障害の悪化 5. 協調関係の多少の損失 6. ミオクローヌス性発作 7 関節痛の増大 8. 油っぽい体臭 9. 13ページ(訳注:訳文では14頁)に概説された一般的にみられる離脱症状の初期の悪化 |
3.1.3
初診時,ウェインは,明白に,同人の処方されていた薬物の性質について理解しておらず,その薬物が通常処方される目的をも理解していなかった。
3.1.4
初診時,ウェインは,同人の病歴に関して事細かく記載した書面を持っており,当職と薬物解毒療法担当看護師に対して,手渡した。この病歴において着目すべきことは,ウェインが下記の症状を報告していることである。
- 動悸
- 胸部の圧迫感
- ほてり
- 胃痛
- 感覚異常
- 視覚障害
- 食欲不振
- 情緒不安定のエピソード(病相)
3.1.5
初診時,ウェインは1日に2度クロナゼパムの錠剤0.5mg(1回分)を処方されていた。ウェインは,前週,この処方量を自分で減らして,1日に2度,錠剤0.5mgの半分宛を服用するようにしていた。同人の言う所によると,その段階で苦しかったが,(中毒治療科のスタッフから)慣れるまで、この用量を保つようにアドバイスされたとのことであった。
3.1.6
漸減療法の間中,ウェインが離脱(退薬)の試煉を切り抜けられるべく,必要なアドバイスと手助けを何でも行うように力を尽くした。アドバイスや手助けとしては,たとえば,ベンゾジアゼピンがどういう薬物であるかの知識の提供,漸減療法を受ける際の実際的な忠告,食事や栄養の忠告,生活習慣の忠告などである。
原注:この時初めて,ウェインは,ベンゾジアゼピンが中毒性を有するのみでなく,数多の質の悪い副作用を有していることを知ったのである。次いで,ウェインは,X医師から不当な仕打ちを受けたという烈しい感情を露わにした。ウェインは,ベンゾジアゼピンを今後2度と使用しないとの堅い決意を示した。
3.1.7
当職は,2001年(平成13年)4月30日,ウェインを再診した。その段階では,同人は自ら服用量をクロナゼパム,朝のみ,錠剤0.5mgの半分まで減量していた。ウェインは,クロナゼパムが当初処方された際の症状の悪化を訴えた。つまり,
- めまい
- 側頭動脈の拍動
3.1.8
2001年(平成13年)5月21日,その日まで,ウェインは16日間ベンゾジアゼピンを使用せずにいた。同人曰く,は,前日を除けばだいたいよく眠れているとのことであった。但し,同人は,以下の通りの症状を訴えた。
- 筋肉の硬化
- 顔面のピリピリ感
- 情緒不安定の増大
そこで,その際,離脱症状(退薬症候)の性質につき,再度,同人と色々と話し合った。
3.1.9
ウェインは,さらに,同人の悪化していた視覚症状を心配していた。そこで,他の隠れた病理が同人の言う視覚症状を引き起こしていないか調べるべく,とりあえず掛かり付け医(GP, General Practitioner)を受診することを提案した。
3.1.10
その後,ウェインは,ベンゾジアゼピンからの離脱(退薬)に成功したので,当科への通院を終え,同人の掛かり付け医であるウィットウェル医師の診療を受けるに至った。
3.1.11
一般的に言って,ウェインは,ベンゾジアゼピンからの離脱(退薬)において,着実な回復を示した。当職が望ましく思うよりは,離脱(退薬)の期間はやや短かったけれども,安全なレベルでの漸減の範囲内である。
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その翻訳は私自身を含む複数の人によって手がけられました。
私の母国語は日本語ではありませんので何卒ご理解いただきたくお
「ベンゾジアゼピン系薬剤はおそらく、これまでで最も中毒性の高い薬物であろう。これらの薬を大量に処方してきた途方もなく大勢の熱狂的な医師達が、世界最大の薬物中毒問題を引き起こしてきたのだ。」
薬という神話 (1992)
「我々の社会において、ベンゾは他の何よりも、苦痛を増し、より不幸にし、より多くの損害をもたらす。」
フィリップ・ウーラス下院議員
英国下院副議長
オールダムクロニクルOldham Chronicle (2004年2月12日)
「薬があれば、製薬会社はそれを使える病気を見つける。」
ジェレミー・ローランス (ジャーナリスト)
インディペンデント紙 (2002年4月17日)