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第二章

 

2.依存症の診断

2.1 診断手順

2.1.1

検査

物質依存(薬物依存症)の診断をするにあたり,はっきりと定義された診断結果をもたらすような特異的検査はない。むしろ,DR・ウェスン,DE・スミスとW・リングがベンゾジアゼピン中毒,他,鎮静睡眠薬中毒に関する講義(「中毒医学の諸原理」第3版)において強調した通り,診断基準を使いこなすには,問題全体につき熟考した洞察と判断を要する。そのため,ガイドラインは,物質依存を診断するにあたり,補助するものとして用いるものである。

2.1.2

診断の基底に用いたもの

ウェインの症例の診断は,下記に基づく。

  1. 全体的臨床像
  2. 履歴  同人が提出した処方や症状の記載を含む書面や書簡
  3. 当科において同人が一般に肉体的・精神的両面にて呈した状態
  4. その他(同人の掛かり付け医の紹介状)

診断を行うにあたり,本報告書の第1章において概説した通り,患者の既往歴を考究する。これにより,患者の総合的な臨床像を形成することができる。さらには,患者を診察し,患者の状態を把握する間,様々な観察を行う。

2.1.3

診断に用いた診断基準

ウェインの症例での診断に用いた診断基準は下記のとおりである。

  1. DSM-IV-TR (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision,精神疾患の診断統計マニュアル4版改訂版;訳注:甲B7)
  2. ICD-10 (International Classification of Diseases, Tenth Edition,国際疾病分類第10版;訳注:甲B13)

ベンゾジアゼピン依存症の診断をするために,当アルコール・薬物中毒治療科では,DSM-IV-TRを用いている。DSM-IV-TRは,アメリカ精神医学会によって使用される基準である。

DSM-IV-TRにおいて記載されている通り,薬物依存症[訳注:「物質依存」と同義。]とは,臨床的に重大な障害や苦痛を引き起こす物質使用の不適応的な様式で,[7つの診断基準の内:訳注]3つ(またはそれ以上)の基準が,同じ12か月の期間内のどこかで起こることによって示される(訳注:甲B7の197頁参照。物質依存と診断するための7つの基準が掲げられている。)。

ウェインの場合,臨床的障害としては,肉体的症状と精神的症状の双方が有った。この臨床的障害と連関するものとして,同人が仕事で職分を全うすることができないことを含む,同人の生活に対する打撃が有った。

DSM-IV-TRによる診断を補うべく,ウェインの臨床像につき,ICD-10に依拠した診断をも併せ行った。ICD-10は,物質依存[薬物依存症]を診断するのにヨーロッパにおいて,より一般的に使用されている。

訳注:ICD-10は,世界保健機構[WHO]の作成に係る,精神疾患を含む全疾患を分類する分類表である。精神科の領域では,ICD-10の第5章である『ICDコード:F00-F99 精神および行動の障害』のみが,DSM-IVと並んで,精神疾患の診断基準として使用されている。甲B13。

2.1.4

診断に至るに用いた手順

まず,最初しなければならないことは,ウェインがベンゾジアゼピン依存ではないかと示唆したウェインの掛かり付け医(GP)からの紹介状を検討することである。

次に,ウェインを問診し,彼の既往歴を知るため,どんな種類のベンゾジアゼピンを彼が処方されていたのか,その量はいくらか,処方期間はいつからいつまでか等といった質問をした。

原注:ウェインには,6か月にわたりベンゾジアゼピンだけ(クロルジアゼポキシド15mg,クロナゼパム0.9mg,トフィソパム150mg)が処方されていたため,依存診断は比較的容易なものであった。

その上で,ベンゾジアゼピン依存といえるような,耐性や離脱症状(退薬症候)といった,一貫した兆候のパターンがあるか,ウェインの既往歴を分析する。

その際,服用量を減らそうとして失敗したことなどの,他の一般的な既往歴にも,注意を払った。

かくして,ウェインの既往歴の全分析を一通り終えると,その既往歴をDSM-IV-TRの診断基準に照らし合わせていきました。

第1の基準-「耐性」と「離脱(退薬)」[訳注:甲B7の197

頁の(1)と(2)の基準]の基準が充足されることは,エビデンスが有る。ウェインが当科にて初診を受けた時の様子と,同人が問診に答えた諸症状とは,「耐性」と「離脱(退薬)」の基準と合致している。「制御不能」の基準[訳注:甲B7の197頁の(4)の基準],「生活に対する打撃」の基準[訳注:甲B7の197頁の(6)の基準],「継続的使用」の基準[訳注:甲B7の197頁の(7)の基準]については,ウェインがこれらの基準を充足することは,同人が当職と薬物解毒療法担当看護師の両方に述べた既往歴から,理解される。

訳注:Withdrawal symptoms は,甲B7では「離脱症状」と訳され,甲B6の181頁の右半分の下から11行目では「退薬症候」と訳されている。すなわち,離脱症状と退薬症候とは,相等しい。いわゆる「禁断症状」のことである。

ウェインがこれらの基準を満たしたとの結論を下す前に,当職らは,ウェインの口頭での自己報告を,同人の交付した書面,同人の掛かり付け医の紹介状,同人の家族からの報告書と照合して検証した。

このようにウェインの既往歴をDSM-IV-TRに照らし合わせることにより,当職はベンゾジアゼピン依存であると診断した。


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2.2 全体的臨床像

患者が薬物依存症であるか否かを診断するためには,患者の全体的臨床像を把握するべく,患者から提供される患者の既往歴を考究しなければならない。ウェインの場合,要点は,以下の通りである。

  1. 患者は,1999年(平成11年)までは健康であった。
  1. 患者は,心理的,神経学的,不安の障害の前歴はなかった。
  1. 患者は同年10月頃より,初めて仕事に関係する複数のストレス症状を体験した。
  1. しかしながら,患者が2000年(平成12年)3月に転職した後に,仕事に関係する患者のストレス症状は軽快した。
  1. 患者は,同年5月11日,上記と無関係で診断された回転性の急性めまい発作を体験した。
  1. 患者は,同人のめまい発作につき,何ら明確な診断を得られなかった後,不安に連関する諸症状を呈した。
  1. ベンゾジアゼピンは,僅かな処方量でさえ,中毒性のある薬物である。長期間の服用においては,尚更である。
  1. ベンゾジアゼピンは,周知の通り,数多の,質の悪い副作用が有り,それらの例として,眼の症状, 無気力, 動悸などが有る。
  1. 患者に投与された総量は,依存症を引き起こすに十分な量であった。
  1. 患者は,治療開始後2~3週間経った時点で,症状が一旦軽快したことを経験した。
  1. 治療開始から約1か月後,患者の体調の改善は止まった。
  1. 治療開始から約1か月半後,患者は,同人の体調は悪化しつつあり,幾つかの新しい症状が出ていると訴えた。
  1. 同様,残りの治療期間を通じて,患者には新たな症状が発現し続けた。
  1. 患者の薬物療法開始後に加わった症状は全て,ベンゾジアゼピンの離脱(退薬)と合致している。
  1. 患者は3回,服用量を減らそうと試みて,いずれも失敗した。患者は服用量を減らそうと望んでいたのに,出来なかったのである。
  1. 患者は同人の状態が悪化しつつあることに気づき,少なくとも2度,X医師の治療に代わる手段を求めた。
  1. 患者によれば,患者の社会的活動や娯楽活動に参加する能力は顕著に減少した。
  1. 患者の掛かり付け医(GP, General Practitioner)の報告書によれば,患者は,最終的には,疲労困憊しきって混乱してしまい,もはや働くことができない状況に至った。
  1. 患者の掛かり付け医の報告書によれば,患者は,そのような体の状態であったので,母国に帰らざるを得なかった。再び働けるようになるまで,約15か月かかった。
  1. 患者は,薬の使用を漸減するには,専門家の助力を要した。
  1. 患者は,標準的漸減療法の間,離脱症状(退薬症候)を呈した。
  1. 患者の状態は,標準的漸減療法を終えた後,改善し続けた。
  1. 患者は,断薬後1年間すると,なお残存した不安感(すなわち,パニック発作)の訴えを除き,薬物療法開始後の症状の殆ど全てから快癒した。
  1. 翻って日本において初診時の患者の元々の訴え,すなわち,めまいもまた,断薬後,初めて顕著に回復しはじめた。
  1. 患者の精神的肉体的健康は,ベンゾジアゼピン断薬後,全般的に改善した。

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2.3 DSM-IV-TR 診断基準

既述の通り,ウェインのベンゾジアゼピン依存症を診断するのに使用した診断基準は,アメリカ精神医学会の使用している基準であるDSM-IV-TRである。 DSM-IV-TRでは,物質依存(薬物依存症)であると診断するためには,7つの基準のうち3つの基準を充足することを要する。これらの7つの基準とは,下記の通りである。

  1. ベンゾジアゼピンに対する耐性の有ること。
  2. ベンゾジアゼピンからの離脱症状(退薬症候)の有ること。
  3. その物質(ベンゾジアゼピン)をはじめのつもりより大量に,またはより長い期間,使用したこと。
  4. 物質使用を中止,または制限しようとする持続的な欲求または努力の不成功の有ること。
  5. ベンゾジアゼピンを得,服用するために必要な活動,または,その作用からの回復に費やされる時間の多いこと。
  6. ベンゾジアゼピン使用の結果,他の諸活動の減少が有ること。
  7. ベンゾジアゼピン使用によって問題が生じたか,悪化したにもかかわらず,ベンゾジアゼピン使用の継続が有ること。

以上の7つの基準のうち,ウェインは1,2,4,6,7に該当した。換言すれば,依存症であると診断するためには,7つの基準のうち3つの基準に該当しさえすれば足りるところ,5つの基準に該当したのである。

基準1.  耐性

耐性の存在は,ウェインによれば,一旦,症状が落ち着いた(前記1.4.5)けれども,その後直ぐに,その他の症状と共にぶり返しはじめた(前記1.4.6)との事実から,明白である。本件における症状のぶり返しは,ウェインが上記1の「耐性」の基準を充足するとの事実と合致する。

薬物依存症(ウェインの場合,ベンゾジアゼピン依存症。)は,慢性的に薬物使用を継続して行くことと連関するが,かかる慢性的使用は,結局,神経生理学的な状態を変化させることに繋がり,その状態変化が耐性という結果として顕れることとなるのである。

耐性とは,「投薬の反復の後,所定の投薬量に対する反応が鈍麻すること」と定義される。耐性に連関する効果は,生体が急性の薬効に拮抗して,全身レヴェルのホメオスターシスを維持しようとするがために生じることは,明白である。

訳注:「ホメオスターシス」は,「恒常性」とか「動的平衡」と訳される。生体の内的環境または体液的素質が交感副腎系を中心として生物学的正常平衡を保つことを言う(医学英和大辞典,2002年11版3刷,南山堂,992頁)。

原注:耐性は,ベンゾジアゼピンの大量投与により僅か4週間だけでも形成され得るし,抗不安剤の臨床用量投与 (ジアゼパム換算で1日あたり40mg以下)でも,毎日の服用により4か月から6か月後に重篤な依存症が生じ得る(前掲「薬物濫用治療教科書(第2版)」,前掲「中毒医学の諸原理(第3版)」)。(ウェインの既往歴によれば,彼は6か月以上の間,ベンゾジアゼピンの臨床用量を処方された。)。

基準2. 離脱症状(=退薬症候)

ディケンソンらが「鎮静睡眠薬依存と離脱の管理」(アメリカ中毒薬物学(ASAM: The American Society of Addiction Medicine)編「中毒医学の諸原理」所収)において強調するように,「離脱(退薬)症候は,短期間(2か月から3か月)の低臨床用量の中断の後でも生じ得るものであるが,そうした短期間の場合,大部分の[離脱:訳注]症候は,仮にあったとしても,ゆるやかなものであるのが普通で,管理し易いものである。これに対し,長期間(1年)の臨床(低)用量の中断の場合,離脱(退薬)症候を生じるのが普通であり,20パーセントから100パーセントの患者にあっては,中程度から重篤な離脱(退薬)症候を伴う。

ウェインの場合,同人が当科において診断されるまでのおよそ10か月にわたり,ベンゾジアゼピンを処方され続けており,その処方期間の長さに応じた離脱(退薬)症候が生じたであろう蓋然性は,極めて高い。

ウェインが離脱(退薬)症候の基準を充足することは,同人の[ベンゾジアゼピン:訳注]療法の間に生じた下記の症状や,同人が全部の薬剤の服用を減らした際にはじめて悪化した下記の症状から明らかである。

  1. 顔面のピリピリ感
  2. 協調関係の喪失
  3. ミオクローヌス性発作(入眠しようとする時,大きな筋肉が突然収縮する発作)
  4. 油っぽい体臭
  5. 関節痛の増大
  6. 筋肉の硬化
  7. めまいの悪化
  8. 側頭動脈の拍動の悪化
  9. 視覚障害の悪化
  10. 情緒不安定の増大
  11. 動悸の増大
  12. 胸部の圧迫感
  13. ほてり
  14. 過敏症

基準4. 制御不能

ウェインは,「制御不能,または,使用を減らしたり制御しようと試みて失敗した」なる前記4の基準を充足する。この充足は,同人が独力でベンゾジアゼピン使用を減らそうと試み,失敗し(前記1.2.7),当科からの標準的暫減療法を受けるまで,失敗したままであったとの履歴によって立証される。

基準6. 生活への打撃

ベンゾジアゼピン使用開始後,ウェインは,同人の生活に対する,下記の記載事項を含む多数の有害な打撃を受けた。

  1. 労働能力の喪失 (14か月以上)
  2. 家族,友人,恋人を含む人間関係の不全
  3. 娯楽活動に参加する能力の喪失
  4. 交際をする能力の喪失

上記に基づき,ウェインは,「ベンゾジアゼピン使用のために,重要な社会的,職業的,娯楽的な活動を減少させられた」なる前記6の基準を充足した。

原注:当職の理解によれば,ウェインは,ベンゾジアゼピンを処方されていた期間中,職業的,娯楽的な活動が困難であったという履歴に関して,詳細な情報を有している(訳注:甲A14,甲A15参照)。

さらには,ウェインの生活に対する上記の打撃は,アラン・ガイ上級臨床心理士・医師によって確認されている。同上級臨床心理士・医師は,遡って2001年(平成13年)8月における初診以降,定期的にウェインを診察して来たのである(アラン・ガイ医師作成に係る2007年(平成19年)4月27日付書簡[訳注:甲A18の3,甲A18の1]参照)。

基準7. 有害であることを知っているにもかかわらず使用を継続したこと

ウェインが自己の状態の悪化に自覚的であったことは,同人が新たな症状のリストを作成し続け,X医師に手渡していた事実から,分かる。

さらにまた,ウェインは,薬物服用を減らそうと3度試みたが,処方されたベンゾジアゼピンを飲み続けることを止めることができなかった。同人は,ベンゾジアゼピンが,もしかしたら,同人に害を齎しているのかも知れないと思っていたのにもかかわらずである。

それゆえ,ウェインはまた,「ベンゾジアゼピン使用のために心理的問題が持続的または反復的に起こるにもかかわらず,継続的使用する」なる前記7の基準に該当する。

原注:これらの症状が軽減しはじめたのは,ウェインがベンゾジアゼピンからの離脱(退薬)に成功し,離脱症状(退薬症候)が落ち着きはじめてからであった。


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2.4 ICD-10 診断基準

ベンゾジアゼピン依存症の診断のために,別の診断基準として,(世界保健機構[WHO]推奨の)ICD-10診断基準を用いたとしても,ウェインは,同様,依存症の診断基準(訳注:甲B13の87頁)を充足した。

訳注:ICD-10によれば,依存症候群(Dependence syndrome)の確定診断は,通常過去1年間のある期間,次の6つの項目のうち3つ以上がともに存在した場合にのみ下すべきである(甲B13の87頁)。

  1. 物質を摂取したいという強い欲望あるいは強迫感。
  2. 物質使用の開始,終了,あるいは使用量に関して,その物質摂取行動を統制することが困難。
  3. 物質使用を中止もしくは減量したときの生理学的離脱状態。その物質に特徴的な離脱(退薬)症候群の出現や,離脱症状(退薬症候)を軽減するか避ける意図で同じ物質(もしくは近縁の物質)を使用することが証拠となる。
  4. はじめはより少量で得られたその精神作用物質の効果を得るために,使用量をふやさなければならないような耐性の証拠。
  5. 精神作用物質使用のために,それにかわる楽しみや興味を次第に無視するようになり,その物質を摂取せざるをえない時間や,その効果からの回復に要する時間が延長する。
  6. 明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず,いぜんとして物質を使用する。たとえば,過度の飲酒による肝臓障害,ある期間物質を大量使用した結果としての抑うつ気分状態,薬物に関連した認知機能の障害などの害,使用者がその害の性質と大きさに実際に気づいていることを(予測にしろ)確定するよう努力しなければならない。

ICD-10によって定義される通り,依存症であると診断するためには,3つ以上の基準を充足することを要する。ICD-10診断基準を参照すれば,ウェインが以下の項目を充足していることが分かる。

  1. 物質使用の終了に関して,その物質摂取行動を統制することが困難(訳注:上記(b))。既に論じた通り,ウェインは医療的援助なしに独力でベンゾジアゼピン服用を減らしたり中止したりすることが困難であった。
  1. 上記説明の通り,生理的な離脱症状(退薬症候)(訳注:上記(c))。
  1. 既に述べた通り,ウェインには耐性の証拠があること(訳注:上記(d))。
  1. ウェインはまた,生活から得る,他の娯楽や興味を無視していた(訳注:上記(e))。このことは,同人が引きこもりを述べている陳述書(訳注:甲A22)や,同人が生活の楽しみをなくしているように見えるとの同人の友人の報告書(訳注:甲A14,甲A15)から明らかである。
  1. 同人はまた,有害な結果が出ているとの証拠にもかかわらず,ベンゾジアゼピンの使用に固執するとの診断基準(訳注:上記(f))に合致する。

原注:ウェインは,5つの基準に合致するので,同人は,ICD-10診断基準の「物質依存症候群」をも明白に充足する。


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2.5 鑑別診断

2.5.1

不安症

ベンゾジアゼピンは,不安に連関した症状を治療するために開発された薬剤であるが,まさしく不安に連関した症状それ自体を生じさせ得ることで知られている。この原因は,耐性と,続発する離脱症状(退薬症候)である。

テー・ハール医師の作成に係る2006年(平成18年)10月19日付書簡(訳注:甲A19)によれば,ウェインは,従前は不安障害に罹患した既往はない。同人は,1999年(平成11年)10月頃,ストレスのかかる仕事に就いていた際,いくつかの軽度のストレス症状を経験したが,同人が数か月後に仕事を変えた後は,これらのストレス症状はおおむね消えた。

当職の専門的意見としては,ベンゾジアゼピンによる薬物治療開始後ウェインに生じた症状は,ベンゾジアゼピン依存症の結果である蓋然性が高いということである。

2.5.2

タバコ,アルコール,マリファナによる従前の影響

既に1.2.3と1.2.4とで概説した通り,ウェインは,十代の時,煙草,飲酒及び大麻を体験した。これらの物質は薬物経験の入口であって,さらなる薬物使用へと深入りして行く前段階であると示唆できるか否かについての最近の研究は,いずれにしても,現段階では,依然として結論は出ていない。

ウェインの状況では,煙草,飲酒及び大麻が,薬物経験の入口であったとは思われない。というのは,その他の点で,同人は薬物依存何ら心理的,社会的危険要素(たとえば,仲間や,職業,家族の薬物使用歴等)を有していないからである。

加えて,幻覚剤持続性知覚障害(フラッシュバック)の症状が,以前に大麻を使用して,使用を止めた人間に起こるとの証明はない。


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日本語訳について

このサイトの主要言語は英語です。裁判で使用された日本語の原文を除き、日本語はすべて翻訳となっています。

その翻訳は私自身を含む複数の人によって手がけられました。従って、品質やスタイルなどに違いが見られます。

私の母国語は日本語ではありませんので何卒ご理解いただきたくお願い致します。その結果として、日本語が不自然に響く箇所があるかと思いますが、どうぞご了承ください。

ジョン・マースデン

「もし何かの薬を飲み続け、それが長い長い災難をもたらし、あなたからアイデンティティをまさに奪い去ろうとしているのなら、その薬はベンゾジアゼピンに違いない。」

ジョン・マースデン医師
ロンドン大学精神医学研究所
2007年11月1日

フィリップ・ウーラス

「我々の社会において、ベンゾは他の何よりも、苦痛を増し、より不幸にし、より多くの損害をもたらす。」

フィリップ・ウーラス下院議員
英国下院副議長
オールダムクロニクルOldham Chronicle (2004年2月12日)

ヴァーノン・コールマン

「ベンゾジアゼピン系薬剤はおそらく、これまでで最も中毒性の高い薬物であろう。これらの薬を大量に処方してきた途方もなく大勢の熱狂的な医師達が、世界最大の薬物中毒問題を引き起こしてきたのだ。」

ヴァーノン・コールマン医師

薬という神話 (1992)

デイヴィッド・ブランケット

ブランケット下院議員、ベンゾジアゼピンについて語る。

「これは国家的スキャンダルである!」

デイヴィッド・ブランケット(英国下院議員)
1994年2月24日

ジェレミー・ローランス

「薬があれば、製薬会社はそれを使える病気を見つける。」

ジェレミー・ローランス (ジャーナリスト)
インディペンデント紙 (2002年4月17日)

マーシャ・エンジェル

「製薬会社に対して、彼らの製造する薬について公正な評価を期待することは、ビール会社にアルコール依存に関する教えを期待するのと同じようなものである。」

マーシャ・エンジェル医師
医学専門誌"New England Journal of Medicine"元編集長

マルコム・レイダー

「ベンゾジアゼピンから離脱させることは、ヘロインから離脱させるよりも困難である。」

マルコム・レイダー教授
ロンドン大学精神医学研究所
BBC Radio 4, Face The Facts
1999年3月16日

ヘザー・アシュトン

「長期服用者のうち15%の人たちに、離脱症状が数ヶ月あるいは数年持続することがある。中には、慢性使用の結果、長期に及ぶ障害が引き起こされる場合もあり、これは永続的な障害である可能性がある。」

ヘザー・アシュトン教授
医学博士、名誉教授
Good Housekeeping (2003年)

スティーヴィー・ニックス

「クロノピン(クロナゼパム)とは恐ろしい、危険なドラッグだ。」

スティーヴィー・ニックス(歌手)

ポール・ボーテン

この気の毒な問題に取り組む全ての関係者は、トランキライザー被害者の為に正義を提供するよう努めるべきである。

ポール・ボーテン(英国下院議員), 1994年

Fair?

  • 当方の重要証人である医長(診断医)は、裁判での証人尋問を2回拒まれています。1回目は東京地方裁判所で、2回目は東京高等裁判所においてです。
  • 第1審決裁後の反証提出期限を過ぎてから、地方裁判所の裁判官は、被告側の有利になる問題を提出し、当方には反証提出の機会すら与えられなかった。
  • 東京高等裁判所の裁判官は、中毒を引き起こすとみなされるベンゾジアゼピンの用量を決める際には、製薬会社が作成した添付文書に信用を置いて、提出された十二分なまでの証拠(疑う余地のない文献や専門家の意見など)を、あろうことか、無視した。
  • 裁判では、被告医師が下した診断と、出された処方は整合性が取れないのだが、その矛盾は追及されることはなかった。
  • 判決理由の記載の中身をみると、高等裁判所は、本件に適応されたDSM-IV-TR診断基準のうち、半分以上について検討していないことは明らかである。
  • 訴訟中に裁判長の交代があった結果、本件について詳しい裁判長の代わりに、本訴訟の経過やベンゾジアゼピンについての基礎知識を全く持っていない新しい裁判長が途中で本訴訟を引き継ぐことになってしまった。

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裁きは公正ですか?

このセクションでは、私が闘った日本の裁判についてお話します。特にそこで現れた、明らかに不当な処置と思われる事例のかずかずを紹介します。これらの事例をわかりやすくお伝えするために、「東京高等裁判所の判決」と「中毒治療科の報告書」への参照箇所(リンク)がいくつか出てくるので是非ご参考ください。また、「中毒治療科報告書」は、一貫して、法的証拠およびDSM-IV-TRの依存症診断基準に基づいて書かれていることにもご留意ください。

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